明けない夜はない
女子部屋を抜け、男臭い部屋に戻ってきた。
男子は皆いるようだ。
だが、女子部屋にいったはずなのに、嬉しそうな顔はなく、皆沈んでいる。
「向井、遅かったな」
「………皆、どうしたんだ?」
「実はな、女子の風呂の時間変更があってな」
それで、皆いなかったのか。
由貴達はちゃんと、入れたんだろうか。
「でも、福田さんとアメリアちゃんと遊守シスターズはいたんだよ」
「よかったじゃないか」
あいつらは、巷では人気らしいからな。
「よくねぇーよ」
「全員から、「今から用があるので、帰ってください」と言われたんだぞ」
美奈は、絶対言ってないと思われる。
せっかく侵入できたのに、収穫を得ることなく戻ってきたわけか。
………ドンマイ。
それも、いい経験だろうよ。
「それで、お前1人なんで遅かったんだ?」
「………ちょっと、売店にな」
「売店に行くためところを見てないが?」
宮野、HELP ME。
思わず宮野を見るが、諦めろと首を横に振る。
「向井、今夜は寝かせないぞ」
男のそんな言葉、嬉しくないぞ?
そして、眠れない夜が始まった。
「………眠い」
「恭弥さん、おはようございます」
「おはよう」
「昨日はよく眠れましたか?」
よく眠れていません。
男供は、本当に寝かせてくれず、最初に始まったのは枕投げ。
隙をついて布団に潜りこんだ俺に、皆枕を投げつけてきた。
それの効果がないとわかると、次は全員で上にのってきた。
そんな状況で寝れる程、肝は太くない。
そして、おしゃべりから苦手な恋愛話になり、俺を眠らせまいと、監視は強くなる。
結局眠ったのは、外が明るくなり始めてからだ。
要するに、寝てない。
なのに、ちゃんと寝てないのは俺を監視していたやつだけで、他はちゃんと寝てやがる。
宮野も、俺をおいて寝てたしな。
まぶたが重い。
今は、朝食より睡眠が欲しい。
欲求不満である。
今日は自由行動だから、1日寝るのも自由だよな?
具合悪いと言って、部屋で1人寝てても誰も気にするまい。
そうと決まったら、朝食を済ませ、部屋に戻ろう。
部屋には、まだ誰も戻ってきてないようだ。
静かに、1番奥の布団に潜りこむ。
さすがに、わざわざ確認することはしないだろう。
京都観光は昼から楽しむとしよう。
………おやすみなさい。
「………さん、………さん」
誰かが、呼ぶ声がする
「………弥さん、恭弥さん」
俺を呼ぶ声?
「………キスしますよ?」
聞こえたワードに危険を感じ、慌てて身体を起こす。
「起きました」
「もう少し寝ててもいいですよ?」
「いや、いい」
「よく、眠れましたか?」
「あぁ。………もう昼か?」
「まだですね」
「………由貴はどうしてここに?」
「私は、恭弥さんの守護霊ですからね」
それで、居場所がわかったの。
それで納得するのも大概だな。
「修学旅行、楽しみじゃなかったのか?」
「恭弥さんがいないと、楽しくありませんから」
「他の皆は?」
「もう出てますよ」
輪なんかは気づいていて、外に飛び出していったのか。
楽しそうでなにより。
「じゃあ、俺達も出かけるか」
「はい!」
2人っきりだが、歩いていれば誰か出会うだろう。
「由貴は京都に詳しいのか?」
「親戚が住んでいたくらいで、然程は」
俺も来たことはあるが、小さいときのことなどよく覚えていない。
「観光用のパンフレットもありますから、それを見ながら周りましょう」
「そうだな」
「では、まず二条城ですね。地下鉄ですぐみたいです」
「見てください! 大きなお城ですね」
「城」というイメージに相応しい天守閣はないが、さすが国宝だな。
「中も広いですよ!」
広い敷地内に、整地された立派な庭園がある。
「次は洛北にある、金閣寺です。
バスで2〜30分ですね」
「本当に金色です!」
「外国人も多いな」
三階建ての楼閣だがそれぞれの階で建築様式が異なる。
初層の「法水院」は寝殿造り風。
二層の「潮音洞」は書院造り。
三層の「究竟頂」は禅宗様式となっている。
初層に金箔が貼られていないのは「寝殿造り」といって平安時代の高級貴族の住居建築風の様式で建てられているため、外壁は塗籠となり、柱と漆喰のモノトーンとなったそう。
断じて、予算が無かったわけではないそうだ。
昔の懐事情なんて知るか!
「ではここから、金閣寺から龍安寺、そして仁和寺の3つの世界遺産を結ぶ観光道路「きぬかけの路」を散策しながら、「龍安寺」を目指しましょう」
「きぬかけの路」という名前は、真夏に雪が見たいと言う宇多天皇のために、衣笠山に絹をかけたという故事が由来になっているそう。
金閣寺から龍安寺までは徒歩約18分程。
「どうやらここは、石庭で有名なようです」
こちらも世界遺産に登録されており、「虎の子渡し」と呼ばれる枯山水の石庭は、エリザベス2世が絶賛したことで有名になったそうだ。
それだけ、古い歴史があるということだな。
「次は歩いて約10分、仁和寺です」
「この大きな門は、京の三大門の一つにも数えられる重厚な二王門です。
それと共に、世界遺産「仁和寺」が見えてきます」
「………桜が綺麗だな」
「御室桜と言われる程、敷地内に植えられた約200株の桜は有名なようです」
国宝の「金堂」をはじめとする重要文化財の数々や、「仁和寺御殿」といわれる御所風建築物など見どころ満載のようだ。
「………そういえば、誰にも会わないな」
「………そうですね。皆、別の場所に行ってるのでしょうか?」
1日目に回った所と3日目に回る所は決まっている。
この2つを考えたら、他の有名な場所は限られる。
他の学校のは見たんだけどな。
「暗くなる前に、後1つ周りましょう」
「そうだな」




