お届け物
本日はクリスマス
昼から、飾り付けと料理の準備と、忙しい。
「恭ちゃん、去年は何したの?」
「自分で作る、手巻き寿司かな」
「私もしたかった」
「それはまた今度な」
「今日は手掴みで食べられる、摘みやすい料理ですね」
と、家の料理長は申しております。
「香はよかったのか?」
「なにが?」
「家でやらなくて」
「それは大丈夫。ちゃんと許可は取ってるよ」
それは聞いた。
たぶん、後で俺がおじさんに何か言われるのだろう。
覚悟しておこう。
「アメリアこれは?」
「それはこっち」
「これは?」
「それはあっち」
アメリアは、クリスマスの飾り付けの装飾長である。
事前準備など特になく、アメリアに聞いて言われ通りに飾るという。
こうやって、人間は社会の歯車になっていくんだな。
1つ勉強になりました。
「恭弥も手伝って」
「すみません」
俺は唯一の男として、こき使われているが、残念ながら力などもさして強くない。
とは言っても、力仕事などないに等しい。
あるのはツリーの設営と、電飾の飾り付けくらいである。
脚立を使い、アメリアに指示されるまま飾り付けていく。
「もう終わりだな」
「中は終わりだね」
「………中は?」
「次は外」
その言い方だと、まるで「鬼は外」なのでやめてほしい。
鬼は外に出して、寒さで凍えろという拷問だろうか。
「………この寒い中?」
「私も寒いから早くしてね」
………わかりました。
なんとか、外の飾り付けを終え、中に戻ってきている。
身体を動かせば温まるが、脚立の上だと当然できない。
手はかじかみ、足を震わせいることなど知らないアメリアは、
「色が違う、位置が違う、形がちがう」
と散々こき使ってくれた。
途中から寒さに耐えきれなくなったのか、強い口調になった気がしたが、気のせいだと思いたい。
でもこれで、外に出る必要ほないわけだ。
……… 明日の片付け?
そんなのは明日の俺に任せる。
今日は、今は嫌な事を全て忘れてしまおう。
「………ピーンポーン」
「はーい」
「郵便です。向井輝紀様からですね」
忘れてしまおうと思った矢先にコレか。
「住所間違ってるんじゃないですか?」
「そんなことは………」
「恭ちゃん、どうしたの?」
「こちら、向井輝紀様のご自宅ですよね?」
「はい、そうですね」
配達員の方が俺をジッと見てくる。
いや、別に嘘をつこうとしたわけじゃなくてね。
「サインをお願いします」
なぜか俺ではなく、香の方にお願いしている。
「わかりました」
それで、なぜか香もサインしている。
「どうぞ」
「ありがとうございました」
………俺がおかしいのか?
「恭ちゃん、どうしたの?」
「いや、サイン………」
「おじさんからでしょ? 違ってた?」
「いや、違いません」
違わないから、
「私、何か間違ったことしちゃった?」
みたいな、純粋な瞳を向けないでくれ。
もうわかったから。
俺が悪かった。
「何が届いたの?」
「さぁ?」
玄関に置かれているのは、大きいダンボールが1つ。
………たためば、人も入りそうだな。
また、アメリアみたいなの入ってたりしたないよな?
「恭ちゃん?」
「ん?」
「開けないの?」
「………そのまま、親父の部屋に押し込もうかと」
「せっかく送ってきたんだし、クリスマスプレゼントかもだよ?」
だから、嫌なんだよな。
クリスマスプレゼントだろうと、受け取りたくない。
………そうだ!
そのまま、送り先の住所に送り返そう。
クーリングオフだと考えれば、問題ないはずだ。
「………何してんの?」
「開けてるの」
そんなの見たらわかる。
なんで、勝手に開けてるんだって話だ。
これで、クーリングオフはできなくなった。
「おじさんからでしょう? 私宛かもしれないし」
「どう見ても、俺の名前宛なんだが?」
「それは、家にいるのは恭弥だからね」
話しながらも、アメリアはダンボールを開けている。
「あ、開いた」
中から臭い果物とか、凶暴な生物とか、呪いの道具とか出てきませんように。
………どうやら、匂いはしない。
中で暴れてる様子もない。
アメリアは中を見て、固まっている。
「………アメリア、大丈夫か?」
「………うん」
なぜか、アメリアは泣いていた。




