本題に移ろう
それでは飯も喰ったし、本題に入ろう。
「由貴のことなんだが‥‥‥」
「はい?」
恋愛をしたことない俺が語るのもどうかと思うが、
「由貴の恋愛をしたい、という願いを叶えたいと思う」
「ありがとうございます」
「ワシのは?」
「お前のは後」
とは言ってもそっちはあまり考えてないのだが、今はいい。
「まぁしょうがないの」
「それで、転入したわけだから学校生活を送ってみるのもいいと思う。そこで、出会いもあるかもしれないし」
そもそも、由貴は世間一般でいう美少女だし、一緒に生活している感じでは性格もいいと思う。
要するに普通にモテると思う。
「わかりました」
「それと、男にも慣れていこう。俺と普通に話しているからすぐ慣れると思うけど」
「そうですね」
「それでリン、お前のことなんだが‥‥‥いきなりはあれだから、まず買い物という名のデートをしよう」
「デート? なんじゃ、それは」
「うーんそうだな………愛を育む活動といったところか」
「そうかそれなら仕方ない」
「それじゃあ、おやすみ」
ベットにねころぶ。
今までのことを整理しようとしたが、いろいろありすぎていつの間にか寝てしまった。
明日も‥‥‥明日からもこんな長い一日を過ごすのか。
頭を使ったからか、それともよく身体を動かしたからか、よく眠れ今朝はすっきり目覚めた。
それでも今日から行動すると思うと憂鬱になってくる。
それでも頑張らなければと、気を引き締め直し部屋を出る。
下からなにやらいい匂いがする。その匂いにつられていくと、由貴が朝食を作っているところだった。
「朝早く起きて、わざわざ作ってくれていたのか?」
「居候の身ですから‥‥‥できることはやろうと」
「そんな気にしなくていいのに、リンは実際何もやってないし」
というかたぶん、リンはなにもできない気がする。
「そういえば昨日もだったけど、由貴は料理上手いんだな。てっきり‥‥‥」
思ったことを口に出そうとして、顔を背ける。
「てっきり、なんですか? 私が料理できないと思ったんですか?」
口に出せないが‥‥‥思ってました。
「そう怒るなって、あまりにも意外だから」
「意外ですか?」
少し怒った表情で聞き返す。
「お嬢様だから、厨房に入ってはいけませんとか、料理はシェフが作るものだとか思ってた」
「失礼ですね。花嫁修業で料理を学んでいたんです。」
「へーそれで。いいお嫁さんになれたと思うよ」
過去形なのがアレだが。
「いくら頭がよくたって料理ができたって、死んでしまえば後には何も残らないし、何も意味をなさないです」
「死んでしまえば意味はないってのには同意だけど、それでもやってきた意味はあったと思うよ。現に、今ここでこうして料理ができているんだからな」
「私は死んだ時、実感がなかった。泣くこともできなかった。死んでしまえば涙なんて出やしない。でも、あなたに出会い自分がここにいる証明となったんです」
「………大変だったんだな。自分がわからなくなって。もう、泣いてもいいんじゃないか? 今は泣くことができるんだから」
「‥‥‥」
「いい雰囲気のところ悪いがの‥‥‥鍋が噴いておるぞ」
「あっ‥‥‥いけない」
由貴があわててコンロに向かう。
………恥ずかしい。
さっきのことをリンに聞かれていたのか。思わず、くさいセリフをはいてしまったと自分でも思う。
「いつから聞いていたんだ?」
「ついさっきからじゃ」
らしくもないことをベラベラと言ってしまった。
「覗き見とは趣味がわるいな」
「お主が語っておったからの」
「俺は別に、うまいこと言えてないよ。知り合いが亡くなったこともないから、身近な人がいなくなるってのがどういうもんかよくわからないんだ‥‥‥」
「そういうもんかの」
「そういうもんだ」
………「当たり前」だと思っていたことが「当たり前」じゃなくなる。
それはきっと、なくなって初めてその大切さに気づくことになるんだろう。
シリアスな気分な所悪いが、俺に今その「当たり前」の日常は失われてしまったんだなと感じる。
「御飯できました」
「もうお腹ペコペコじゃ」
「今行く」
なら、平凡な日常がなくなった俺は、なくなった普通というものの大切さに気づくのだろうか‥‥‥。
「お主‥‥‥何を考えておるのじゃ?」
「いや、なにも」
今はまだ‥‥‥それでもいい。
俺が年をとってから、あの日あの時選んだ選択が後悔のないものだったといえるようなら、俺は幸せだったと思える。
さて、話を戻そう。
「それじゃあ、今日から作戦を開始しよう」
「作戦とな?」
「恋愛をするには相手に出会わないといけないから、楽しく学校生活を送ることだな」
「はい!」
「まぁでも、普通にモテるだろうから相手の心配はいらないかもしれないけどな」
「男がよってくるとな」
「そういうのはちょっと‥‥‥」
俺が盾になるか‥‥‥でもそれだと勘違いされるだろうし‥‥‥。
「習うより慣れろだ!」
そこから丸投げ。
いや、もうなに考えても藪蛇にしかならなそうだし。
「な、なるほど。慣れてしまえばこっちのものだと」
「そのうちにワシらは愛を育むのか?」
「それはまだだ」
「それじゃあ作戦名コード『JHR』(成仏するための初めての恋愛大作戦)を始めるぞ」
「承知した」
「なんかむりやり押し込めた感じが‥‥‥」
自分でも無理矢理縮め、なんかかっこいい横文字に挑戦したが、外にコダワリすぎて中が疎かになっていることに気づいていた。
外側はケーキに見えるけど中はパンみたいな?
なので、あえてそこは何も考えず、忘れることにした。
気にしたら負けだ。
「もうそこはいいから、学校行こう」




