良いのか悪いのか
なんとか、前半は1点に抑えることができた。
だが、体力的にも、精神的にもこちらは限界に近い。
ハーフタイムに入っただけ、よしとしよう。
「………どうすんだ?」
「どうしようか?」
皆、集まり作戦会議を開いている。
「サッカー経験者は?」
手は挙がらない。
「部活やっているのは?」
宇田を入れて、5人の手が挙がる。
「近藤、何か案はないか?」
「ある。だが、難しい」
「やらずに負けるよりいい」
宇田のその言葉に皆頷く。
「………わかった。
じゃあ、4ー4ー2でいこう」
サッカーのルールなど知らないから、特殊な言葉を使われてもよくわからない。
「前に2人、真ん中に4人、後ろに4人。
前は背の高い、大井手と成冨に任せる。
真ん中は俺と向井、朝倉、西久保。
後ろは宇田、石垣、前川、森山。
キーパーは城。
攻撃はカウンターをメインに。
自陣でボールを奪ったら、すぐに前に走る。
相手が少ない内に人数かけて、攻撃を行う。
守備は宇田」
「………俺?」
「ゾーンディフェンスとマンツーマンでいく」
「バスケと同じでいいのか」
「感覚はそれでいい。そして、守備陣に指示してくれ」
「わかった」
「何か質問はあるか?」
珍しくというか、初めて長く話してるのを聞いた。
「お前、意外と喋るんだな」
「それは質問に値しない」
………そうですか。
「無言は肯定と受け取る。もう休憩が終わる。作戦通りにいく」
皆で、再度円陣を組む。
「絶対勝つぞー」
「「「「「おー!」」」」」
「そのやる気がいつまで保つかな」
「………試合始め!」
相手は上手いといっても、やはり素人。
勢いよく攻め込むが、宇田達のなんとかディフェンスとやらで、上手く攻めこませない。
そこからリズムに乗り出したのか、カウンターも上手くいき始める。
だが、ゴールまで結びつかない。
一進一退の攻防が続く。
高城は焦れて、1人で攻め始める。
ドリブルで躱し、ペナルティーエリアまで進入してくる。
だか、ディフェンスの数の力でそれ以上攻め込めない。
相手選手が走り込んできてパスを出したが、キーパーの好セーブに阻まれる。
そして、ボールを敵陣へ思い切り投げ込む。
それと同時に攻撃へ走り出す。
さっきより、守備は薄い。
朝倉がボールを取り、近藤にパスをする。
近藤はそのまま前を向き、ドリブルで相手を躱す。
………は?
キャラぶれ起こしてないか?
そして、西久保にパス。
相手が詰めてきた所を近藤が受け取り、躱す。
そして、成冨へパス。
成冨はそのままシュート。
これはディフェンスに当たる。
大井手がそのこぼれ球をシュート。
キーパーに弾かれる。
目の前にボールが転がってくる。
そのまま、足を振りかぶる。
「………ピー」
突然、目の前は真っ暗になった。
少し、土の味がする。
「てか、重っ」
どうやら、クラスの連中が背中に乗りかかってきたようだ。
「なに、おいしい所だけ持っていってんだよ!」
「「「「そうだ、そうだ」」」」
「俺のアシストのおかげだぞ」
「なんでもいいから、どけ」
たまたまボールが転がってきて、蹴ったら入った。
それだけだ。
運が良かっただけ。
いや、こんな事に運を使ってしまったと考えると、結果運が悪い。
「試合、再開されるぞ」
皆、慌てて自陣に戻る。
試合はそのまま1ー1が続いた。
なんとか最後まで踏ん張ったが、先程の馬鹿喜びで少ない体力を使い果たしたことが仇となり、最終的にはゴールを許してしまい、1ー2で負けてしまった。
それでも、皆笑っている。
沢山動いて、馬鹿やって、楽しんでいる。
「近藤」
「なんだ?」
「お前、サッカーやってたんだな」
「俺は教室に戻る」
恥ずかしがっているのか、声や表情ではわからない。
美奈と同じレベルだな。
「直接言ってなかったけど、恋人探しの件、ありがとな」
「………気にするな」
そう言う近藤は、笑っているように見えた。




