出番あるみたいです
どうやら、試合はF組が勝ったようで、次勝てば決勝でF組と当たる。
それに、休憩時間が短いので連戦になる。
………ということは、俺の出る可能性もあるわけだ。
体調不良を理由に、保健室に匿ってもらおうかな。
「恭弥さん、頑張ってくださいね」
由貴やアメリアは、そのままついてきている。
補欠がなにを頑張れと。
………まさか!
実は
「逃げないように頑張ってくださいね」
と思っているとか?
………考えすぎか。
それより、いちよ試合を見ておかねば。
宮野は1試合と変わり、攻撃の中心となっているようだ。
だが、相手にもサッカー部がいるようで、個人プレーだけで勝てる程、甘くないらしい。
試合は1ー1。
残り時間は短い。
「ロスタイムは3分です」
ロスタイムに入った。
これで試合が決まらなけば、PKになる。
どちらもが果敢に攻めている。
相手の選手がパスをカットし、最後とばかりにパスを回し、全員で攻め込む。
ペナルティーエリアのサッカー部にボールが渡る。
1人躱し、シュートを放つ。
キーパーは逆をつかれ、反応できない。
だが、戻ってきていた1人が顔面でゴールを死守する。
相手が詰めてくる。
キーパーは素早くボールを掴み、前方へ投げる。
いち早く反応した宮野が1人走っている。
それを追う相手サッカー部。
先に追いついたのは、宮野。
ドリブルで真っ直ぐゴールへ向かう。
それに追いついく、相手サッカー部。
後ろから、皆追いかけてきている。
宮野はドリブルで抜こうとして、そのままシュートを放つ。
そのシュートはゴールに吸い込まれていった。
「………ピー、試合終了」
男子は集まって喜び、女子にハイタッチしている。
「すごかったですね」
「………そうだな。行かなくていいのか?」
「大丈夫です」
なにが大丈夫かわからないが、アメリアは選手とハイタッチをしている。
ここから短時間の休憩が入り、2年の決勝が行われる。
宮野は何故か、喜んでいる選手の方ではなく、こちらに歩いてくる。
「宮野、ナイスゴール」
「ありがとう」
「行かなくていいのか?」
「それより、行く所があってな」
喜ぶより大事な事?
喉乾いたから、今すぐ飲み物飲みたいとか?
「ほら、飲み物」
何故か、飲み物を受け取り固まっている。
スポーツドリンクより水が良かったとか?
「わるいけど、次の試合出てくれないか?」
「………は?」
どうした、今日のヒーロー。
このまま優勝すれば、間違いなくお前が今日のヒーローなのに。
お立ち台は準備してないが。
「………さっきの顔面セーブ?」
「それもある」
「それも?」
「どうやら、無理な体勢でシュートを打ったみたいで、足を痛めた」
「お前、大丈夫か? 早く保健室行くぞ」
「たぶん、大丈夫。ただ次の試合には」
「わかった。お前の代わりが務まるかわからんが、俺が出る」
「ありがとな」
「いいから、お前はさっさと保健室に行け」
そんなわけで、俺の出番がきてしまった。
宮野に頼まれたら仕方ない。
というか、2人選手交代だから俺しかいない。
………2人?
あと、1人誰?
ひとまず、クラスの連中の所へ向かう。
「悪い報せがある。宮野が負傷した」
「「え?」
「は?」」
「それと、顔面セーブしたやつも次出られないらしい」
「じゃあ、誰が出るんだ?」
「俺が出る。もう1人、補欠がいたはずなんだが」
「俺だ」
「「ビックリした!」」
突然、知らない声がするから、それは驚くわ。
しかも、そこにいたのは
「「「「………誰?」」」」
誰かわからない。
二重に驚く。
顔は覚えてないが、声は聞いたことある気がする。
この特徴的だが、特徴のない声。
矛盾してないか、だって?
そんな風にしか思い出せないんだから、仕方ない。
「向井、お前も覚えてないのか?」
「元バスケ部のキャプテン」
「もしかして、お前の名は………」
「近藤か!」
大事な所を取るな!
タメが無意味になっただろう。
「データ君か。また、同じクラスだったんだな」
「俺は知っていた」
………ごめんなさい。
クラス全員出てくるわけじゃないし、未だに全員の名前覚えてません。
「これで11人だな」
「次は2年の決勝。それに宮野がいない。さらに、相手チームには宮野と同じくレギュラーのサッカー部がいる」
すまん。
そこまでは知らなかった。
「大丈夫か?」
「大丈夫でなくとも、試合は始まるんだ。今更ジタバタしても、何も解決しないだろう」
心の準備はできてないが、試合は待ってくれない。
「………宮野はどうした?」
「負傷交代だな」
「チッ、せっかく楽しみしてたのにつまらないな」
「コイツが例のサッカー部か?」
「あぁ、そうだ」
「まぁ、気に入らない奴もいるから、ここで叩くか」
「お前、名前は?」
「俺? 高城健人」
「お前は向井恭弥だな」
「それが?」
名前覚えられても、嬉しくないな。
「怪我に気をつけろよ」
「ご忠告どうも」
その言い方だと、怪我させるって言ってるようならものじゃないか。
「………試合始め!」
あの高城とやらには、気をつけておこう。
同じ11人だが、実力が違う。
サッカー部だけでなく、皆上手い。
それに対してこちらは、素人の集まりだ。
しかも 1人参加せず、ゴールの横に立っている。
例のDT君である。
もちろん、意味はデータである。
さらに、人数にも差ができてしまっている。
こちらのパスは繋がらず、相手のパスはカットすることができない。
真ん中より上がらず、全員下がりゴールを守っている状態だ。
そのディフェンスも虚しく、得点が入ってしまう。
相手チームは喜び、こちらはお通夜ムードである。
「………ピー」
ハーフタイムの笛がなる。




