花より団子
花火大会当日
今回、着付けは香母と由貴にお願いしている。
女性陣は髪や化粧があるので、男の俺は最後である。
皆が着付けをしている間、1人部屋に閉じこもる。
リビングを使うらしく、追い出された。
特にやることもないので、最近アメリアによって増えたマンガを読むことに勤む。
「………コンコン」
「はい?」
「恭弥君、着付けするわよ」
「わかりました」
既に、女性陣は着付けを完了しているようだ。
「すみません、お願いします」
「はーい」
ひとまず、服を脱いでいく。
「お前達、俺が着替える間もここにいるのか?」
「何か問題か?」
「裸を見られる趣味はないんだが」
「別に問題ないじゃろ」
だだの女尊男卑だ。
由貴や香は顔を手で隠しているが、指の間から目が見えているぞ。
気にしないようにしよう。
「恭弥君、いい身体してるわね」
おばさん、あなたもですか!
指で身体を触ってくる。
「あの………恥ずかしいので、早くお願いします」
「ごめんなさい、ついね」
そこからは問題なく進み、俺の着付けも完了した。
「恭ちゃん、私のはどう?」
「久しぶりだな。その浴衣を見るの」
昔と変わらないない、紺色の浴衣を着ている。
サイズは意外と大丈夫そうだな。
「お揃いだね」
「そうだな」
男なんて色が少ないから、どうやっても誰かとかぶるものだ。
「まだ明るいですけど、今の内に場所を確保しておきましょう」
「そうだな」
輪の食べる量にもよるが、皆も座る場所はあった方がいいだろう。
「おばさん、ありがとうございました」
「いいのよ、楽しんでらっしゃい」
「いってきます」
外には、既に浴衣を着た人が見受けられる。
やっぱり、皆早い時間から場所取りするんだな。
会場に近くなると、屋台も増え、人も少しずつ増えていく。
「あれも美味そうじゃ。あれも、あれも」
屋台の前を通る度に、輪が目を輝かせている。
「まずは、場所の確保だ。特に、お前なんかは逸れるだろう」
「仕方ないのう」
場所さえ分かっていれば、逸れても大丈夫だからな。
「あそこはどうですか?」
由貴が指差したのは、土手の上の方。
「早い時間から、あそこにいると邪魔にならないか?」
「端の方ですから、人は通らないでしょうし、全体が開けて見えます」
なるほど。
「じゃあ、そこにしよう」
「なら、ワシは美味いものを探してくる」
「私もついて行く」
「俺は場所取りをして、待っているよ」
「今は、シートさえ飛ばないしておけば、大丈夫だよ。だから、恭ちゃんも行こう」
「そうです。恭弥さんも行きましょう」
右手を香に引っ張られ、左手を由貴に引っ張られ、連れられて行く。
この状況で、無理矢理手を振り払うという選択肢はない。
由貴はともかく、香は体制を崩しそうだからな。
「………輪、まだ買うのか?」
「当たり前じゃ!」
さっきから、唐揚げからフランクフルト、ポテトフライ、綿あめ、りんご飴、焼鳥、ケバブetc。
クジや金魚釣りといったものには目もくれず、ひたすら食べ物のみ買っている。
場所を取っておいてよかったな。
戦利品を両手一杯に持っている。
そして、器用に食べている。
「恭ちゃん」
「恭弥さん」
俺の手を掴んでいる2人は、なぜか逆の方向に引っ張り合う。
やめてくれ、手が千切れるから。
「一旦、戻ろう。俺はゆっくり食べたい」
「ならワシは、アメリアともう少し周ってくる」
「そこのアホのこと頼んだぞ」
「わかった」
人が増えてきている。
食べ物は輪が腐る程買ってくるだろうから、軽くで十分だろう。
さっさと戻ろう。
「おっ! 向井」
「ん? 久しぶりだな宮野」
「お前は相変わらずみたいだな」
俺の両手を見て言ってるが、なんのことやら。
「香も遊守さんも久しぶり」
「高君久しぶり」
「宮野さん、お久しぶりです」
「部活帰りか?」
「そうそう。夏休みだってのに部活部活だ」
「青春してるな」
「いや、お前の方がしてるだろう」
………そうか?
確かに遊んではいるが、それだけだ。
「お前も来るか?」
「いや、俺は遠慮しとく。部活のやつも待たせてるからな」
「そうか」
じゃあ、次会うのは学校かな。
宮野は逆の方へ歩いて行き、人混みに紛れ見えなくなった。
「行きましょう、恭弥さん」
「………そうだな」
場所が取られないように戻ろう。
「ちゃんと、場所空いてるね」
シートを置いた場所は占領されていない。
だが、周りにはもう結構な人が座っている。
まだ、花火も始まっていない。
小腹が空いたので、軽く食べ始める。
「いただきます」
「ん、美味しいです」
「美味しい」
外で食べるのは美味い。
海やキャンプもいいが、花火大会もまたよし。
人が多いのが少し難点だが。
あとは、輪とアメリアが買ってくるものに期待しよう。
「ただいま。………疲れた」
2人の手には、両手一杯に食べ物?を持っている。
「そんなに買ったのか?」
「いや、これでも途中で食べていたからのぅ」
どんだけ、食うつもりなんだよ!
たこ焼きにお好み焼きにかき氷に人形焼etcどれも重そうだ。
「炭水化物ばかりですね」
「食べたいのだけ食べればいいさ。どうせ、残りは輪が食べるんだからな」
「………ヒュー………バァン」
花火が上がり始めた。
「間に合ってよかったよ」
「綺麗だね」
1人を除いて、花火を見上げている。
「お前、どれだけ食いしん坊なんだよ」
何か話そうとしているが、モグモグと口が動くだけである。
今度から、1人だけ家に残そう。
帰りにお土産買ってくれば、たぶん満足だろう。
よし、そうしよう。




