夏の始まり
高校の夏休みは、冬休みより期間が長い。
体育祭が終わってから、不名誉な称号の拡大が止まらない。
人の噂も75日というし、夏休みの楽しい思い出で塗り潰してくれないかな。
というわけで、夏休み編スタート。
「んー、暑い」
只今の気温、37℃。
今年は例年より気温が高く、過去最高の記録が相次いでいる。
最近はあまり聞かなくなったが、これも温暖化の影響か。
40℃を叩き出している所がある中、37℃は頑張っている方だろう。
誰のお陰かは、神さえ知らない。
なぜなら、神は俺の目の前でぐったりしているからだ。
そろそろ干からびそうだから、水が必要かな。
なぜ、こんなことになっているかというと、連日の猛暑によりクーラーをつけっぱなしでフル稼働させていたら、壊れてしまったのだ。
………コイツも、もう年か。
親父に連絡をしたら、新しい物を買え、とのこと。
次帰った時に、暑かったら堪らん、ということだ。
いつ帰るかわからない自分の心配より、俺達の心配をしろよアホ親父。
そういうわけで、クーラーを買おうと暑い中、電器屋に行ったのだが、まさかの売り切れ。
普段こういうことはないらしいのだが、機械も暑さに耐えられなかったのだろう。
仕方ないので、修理を頼んでみたら、2ヶ月後になるということ。
………もう夏終わってるよ。
この時期だから、そういう家はやはり多いようだ。
電器屋によると、予約の方がまだ早いようで、予約することになった。
しかし、到着するのに1週間かかるらしい。
そんなわけで、冒頭に戻る。
家には辛うじて、扇風機があるだけだ。
存在さえ忘れてかけていたがな。
だが、ありがとう。
これで、心に少し余裕ができた。
だが、1台しかなく、今は由貴が料理中のため使っている。
………早く、俺に癒しを、涼しい風をくれ。
「できましたよ」
やっと、我が家の女神の登場である。
輪も食欲はあるようで、顔を上げる。
「冷やし中華、始めました」
夏ですね。
3人で扇風機の風に当たりながら、冷やし中華を食べる。
「冷たくて、美味い」
「美味いのじゃ」
残りの1人、アメリアは今家にいない。
外に出かけている。
アメリアは夏休みに入ってから、基本家にいない。
予定があるのか、毎日出かけている。
ちゃんと、夜には帰ってくるようだが、どこに行ってるのだろうか。
そこを制限する気はないので、何も言わない。
アメリアの場合、何かあるなら報告はしてくるだろう。
「そういえば、2人共怪我とかしないよな?」
「そうですね」
「そうじゃな」
「なら、同じ感覚で自分の体温くらい調節できないのか?」
「ワシらは、元々正常な身体の状態を記録してあり、それは環境などから干渉されることはない。
要するに、一定の状態を維持しているのじゃ。
しかし、周囲の環境に干渉されないからといって、体温まで一定に固定してしまうと、冬は寒く、夏は暑くなってしまう、というわけじゃな」
………なるほど。
勉強になります。
さて、勉強が終わった所でどうしようか。
外に出るのも暑いが、家の中にいても変わらない。
どうせ出るなら、涼しい所がいいよな。
「恭弥さん、プール行きませんか?」
「プール、いいな!」
「この前、 スーパーの福引きで当たったので」
それは、すごい。
ちなみにそれ、俺の幸運値の低さによって、とかじゃないよね?
「ペア×2なので4人ですね」
「なら、アメリアにも連絡してみようか」
「そうですね」
携帯を開き、用件だけ伝える。
「………ブー、ブー」
返信早いな。
開いてみると「すぐ帰る」と書いてあった。
………行くってことだよな?
「アメリア只今帰りました」
その謎の気をつけと敬礼は何?
さては、どこかのゲームから持ってきたな。
「うん、おかえり」
「じゃあ、行きましょうか」
「アメリアは水着持ってるのか?」
「持ってないよ」
それなら、直接プールに集合でもよかったな。
すまない。
「輪は?」
「ワシも持っておらぬぞ」
「由貴………も持ってないないよな」
「体育用のしか」
完全に忘れてた。
体育はあるが、基本競泳用だし、去年は行ってないからな。
すっかり、頭の中抜け落ちてたよ。
「どうする? プールでレンタルするか? それとも買うか?」
「海にも行くでしょ?」
それは初耳だが、行くのは問題ない。
「それなら、買った方が良さそうですね」
水着を買うことと、海にも行くことが決まったようだ。
「じゃあ………俺は先にプール行ってるから」
「え?」
「ん?」
「は?」
「恭弥さんも一緒に行くんですよ」
………そうですよね。
わかってました。
学習したから、逃げようとしたけど、既に遅かった。
「プールの、降りる駅にショッピングモールがあるみたいです」
「よし、じゃあそこに行こう」
「「「おー!」」」
というわけで、来ましたショッピングモール。
今が時期ということもあり、水着のスペースは広く、人も多い。
男性用と女性用、別々に売ってる店もあるが、由貴達が入ったのは両方扱っているお店だ。
………俺は持ってるんだけどな。
どちらも種類が豊富なようだ。
Vではなく、Oみたいな、
ソレ大丈夫なんですか?
どっちか千切れません?
みたいな物もあった。
ここにあるってことは、需要があるってことだよな。
俺には良さがわからん。
「お客様、お疲れ様がお呼びです」
店員さんがわざわざ呼びに来てくれた。
3人共、着替えたらしい。
俺に見せる必要はないと思うけどな。
どうせ、プールで見るんだから。
………女性の方は、目のやり場に困るな。
店員さんの背中だけ見ておこう。
「こちらです」
「はい」
「あの………それじゃあ、私の背中しか見えませんよ」
「す、すみません」
店員さんの背中を注視するばかり、ずっと後ろについてしまった。
「3人共、着替えたか?」
「大丈夫です」
「大丈夫」
「大丈夫じゃ」
「じゃあ、開けていいぞ」
3つのカーテンが開けられる。
「3人共、似合ってると思うぞ」
それ以外に言いようがない。
由貴は透け感のある黒のトップスとスカートで恥ずかしがっている。
試着なんてしなければよかったのに。
アメリアは緑の総柄でオフショルダーになっているオールインで笑顔だ。
リンは赤の総柄でタンキニでふんぞり返っている。
なんで?
それぞれセットになっていて、皆中にビキニを着ているようだ。
「3人共お似合いですね」
店員さんもお上手ですね
「じゃあ、俺は店の外で待ってるぞ」
3人の返答を待たずに店を出る。
ソファーがあったので、座る。
「………涼しいな」
「恭弥さん、お待たせしました」
「………今日1日ここでもいいな」
もう、プール行かなくてよくないか?
ここ涼しいし、ソファーあるし、お腹空いたら下に行けばいい。
「はいはい、行きますよ」
あいも変わらず、俺の意見は聞いてくれないらしい。




