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二兎追うもの一兎も得ず




「………えーっと」


突然の出来事に、まだ理解できていない。


「なんだ、その幽霊でも見るような顔は」

「私達の顔、忘れたの?」


いえいえ、忘れていませんとも。

海外出張に行った父と、その父と離れるのが嫌でついて行った母でしょ。

2人がいなくなったのは、中学校を卒業してからだから、約1年。

そういう訳で、最初に出てきた言葉は



「お………お久しぶりです」

「そこは「おかえり」でしょ」


母さん、ツッコミありがとう。

でも、俺もテンパっているんだよ。

「お」繋がりで、「お久しぶり」が出るくらいには。

そして、なぜか丁寧な表現になるくらいには。

頭の中で色々考えてたら、少し落ち着いてきたぞ。


「2人共、お帰り」

「「ただいま」」


ちゃんと言えたところで、次に考えたのは由貴と(りん)のことである。

もう、先程の落ち着きはどこかへ消えてしまった。

何も考えない。

何も思い浮かばない。


「香ちゃん、久しぶりだね」

「おじさんも、おばさんもお久しぶりです」


………なに⁉︎

(りん)だけだと油断していたら、香がいた。

そして、由貴もいた。

2人は俺が帰ったのに気づいて、追ってきたようだ。

これはマズイぞ。

香には従姉妹だと説明をしている。

だから、この時点で詰んでいる。

まさかの、挟み撃ちだ。


「久しぶりの家族水入らずだろうから、私は帰るね」


なんと!

ここで奇跡のアシストか。

ありがとう、香。

そのアシスト、きっと活かしてみせるよ。


香が帰ったのを確認し、


「親父………」

「そちらの2人は誰だ?」


おーっと。

まさかここで、ディフェンスがつめてきているだと。

いや、まだ大丈夫だ。


「この姉妹のことなんだけど、火事で家を無くして、両親もいないらしいんだ。たまたま、そこに遭遇して可哀想だから、家に連れて来たんだけど………ダメかな?」


向井選手、ディフェンスを躱し、シュート。

両親からは返答がない。

設定過剰過ぎたか。

2人は俺に近づいて………通り過ぎた。


「2人共、頑張ったな」

「大変だったでしょう」


そう言って、由貴と(りん)を抱きしめている。

ゴール!


「ずっと、ここにいていいんだぞ」

「そうよ」


両親の泣顔とは裏腹に、幽霊姉妹は複雑そうな顔をしている。

ちょっと、心が痛んできた。


「「ありがとうございます」」


(りん)、お前………普通の言葉も話せるんだな。

普段からそうしろよ。


両親が落ち着いたところで、


「この2人は遊守由貴と(りん)

「遊守由貴です」

遊守輪(りん)です」

「「よろしくお願いします」」

「俺は向井輝紀」

「私は向井稜子」

「「よろしく」」


訳ありとは言え、よくもまぁさっきの話で納得できるな。

お人好しなのか、バカなのかわからん。


「恭弥」

「なんだ」

「お前が拾ってきたんだから、最期まで面倒みるんだぞ」


そんな捨て犬みたいな。

結局、俺の責任なのなかわらないんだな。

一旦、問題は解決したからよしとしよう。

さて、香とどう口裏を合わせよう。

両親と香が接触するのはマズイな。

色々、バレてしまう。

あと、最期という所で幽霊2人反応するんじゃない。

お前には、既に最期なんてないだろうが。


「2人共、いつまでここにいるだ?」

「私達は明日帰る予定よ」

「そうか」


この2人、なにしに帰って来たんだ?

まぁ、2人のことだから、どうせ理由なく行き当たりばったりなんだろう。

でも、明日帰るなら香と接触することはなさそうだし、大丈夫かな。

最悪、香が家に来なければ問題ない。

それか、両親を家に閉じ込めておけば問題ないな。


「………忘れてた。お前に紹介したい子がいるんだ」


………紹介?

嫌な予感しかしないんだが。


「こっちよ」


家に入り、リビングに案内される。

そこには、金髪碧眼の美少女が座っていた。


「友人に頼まれてな。1人増える」


親父も拾ってきてるじゃないか!

それも俺に押しつける気だ。

もしかして、そのための一時帰国とかじゃないよな?


「はじめまして、アメリアと申します。よろしくお願いします」


そう言うと、ペコリと頭を下げる。

すごく流暢な日本語だな。


「俺はこの2人の息子で向井恭弥。よろしく」

「アメリアは日本に興味があるらしくてな、家にホームステイすることになった。それで、お前の学校に留学するから」


ここにもホウレンソウをできない、バカ社会人がいた。


「親父、ホウレンソウって知ってる?」

「そりゃ、もちろんだ」

「じゃあ、なんでできてないんだ?」

「す、すまん」

「毎回毎回、事前にちゃんと説明してくれよな」

「恭弥、言い過ぎよ」

「母さんも、一緒にいるならそれなりに働いてくれる?」

「ご、ごめんなさい」

「こういう子だけど、よろしくな」


悪びれる気0だな。

申し訳なさそうな顔から笑顔に変わってやがる。

仕事はできるんだよな、仕事は。


「で、2人が一時帰国した理由って?」

「もちろん、アメリアを家まで届けるついでにお前の進級祝いをな」


普通、そこは逆じゃないのか?

俺のことがついでなんだな。

2人に期待するだけ無駄か。

どうせ明日帰るんだし、2人はもう放っておこう。


「じゃあ、今日はアメリアの歓迎も兼ねて、ご馳走よ」


俺1人取り残されて、皆は準備に取り掛かっている。

いや、わかってたよ。

マンガみたいに、主人公中心に進まないって。

むしろ、主人公おいてけぼりで、魔王とか倒しちゃうって。

主人公、始まりの町の近くで地道にレベル上げしてるんだよ。

毎日、日銭稼ぐのがやっとの生活なんだよ。

ごめんよ、主人公。

君を主人公にしてあげられなくて。


なぜか、慰めるように(りん)が肩を叩いてきた。






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