今年も早年
時は過ぎ、年末
「恭弥さん、お蕎麦できました」
「ありがとう」
リビングにいい香りが広がる。
テレビには毎年お決まりの年末特番が流れている。
今年も、もう終わりか。
こういうのを見ると、もう今日で終わりなんだと感じる。
………今年は色々あったな。
高校に入学してから、ではないか。
高校の入学式からだな。
まぁ、入学式には参加してないけど。
幽霊に憑かれたり、神(笑)に迫られたら、
成仏の手伝いしたり、異世界行ったり、神(馬鹿)に会ったりと色々ありました。
ただの、普通の高校生とは呼べなくなってしまいました。
この不幸体質は、どこぞの主人公にでも押し付けたい。
願わくは、来年からは平和な人生を歩んで行きたい。
よし、では締めましょう。
「「今年はお世話になりました」」
「「来年もよろしくお願いします」」
家では、蕎麦の麺が伸びないように、先に挨拶を済ませてしまう。
輪は知ってか知らずか、2人の挨拶をよそに1人で蕎麦を啜っている。
「もうそろそろ、年明けるぞ」
「………5・4・3・2・1 HAPPY NEW YEAR」
「「明けましておめでとうございます」」
平凡な日常の幕開けだ。
というわけで、寝よう。
「おやすみ」
「恭弥さん、もう寝るんですか?」
「明日、初詣行くからな」
「ワシはまだ起きてるぞ」
「寝坊したら、おいてくからな」
「私も少し起きてますね。こういう年明けって初めてなので」
「わかった。眠くなったら寝るんだぞ」
「わかりました。おやすみなさい」
元旦
「………こんな朝早くから並ぶのか?」
時刻は只今6時30分
にもかかわらず、多くの人が初詣に来ている。
「そうですよ。日の出も見たいですから」
それならそうと、先に言ってほしかった。
昼前くらいだと油断していた。
せめて、元旦くらいはゆっくり休ませてほしかった。
世のお父さんは、やれ福袋だ、初売りだと駆り出されている。
御愁傷様です。
「由貴はちゃんと寝たのか?」
「はい。でも、私達は寝なくても平気ですから」
それはいいな。
でも、それだと労働条件が休憩無しで過酷なブラックになりそうだな。
輪は………寝ていた。
由貴に背負われている。
「輪も睡眠必要ないんじゃないのか?」
「はい、必要はないと思います」
その割に、毎日成長期の子供並に寝ているぞ。
「輪さんの場合は、ただ寝るのが好きなだけだと思います」
職務怠慢で通報するぞ!
由貴を見習え!
「恭ちゃん」
そこには、着物を着た香の姿があった。
「明けましておめでとう」
「明けましておめでとう」
「香も朝早くから来てたんだな」
「うん」
「着物なんて珍しいな」
「お母さんがやってくれたの」
うん、似合ってると思う。
日本の様式美ってやつかな。
「………私も着たかった」
なぜか、由貴が落ち込んでいる。
来年は着物の準備してやろう。
香はクリスマスと年越しを家で過ごしたいと言ってきたが、流石に止めた。
そこは、家族水入らずの方がいいだろう。
「あっ、そろそろ日の出みたいですよ」
「ホントだな」
外はだんだん、明るくなってくる。
黒から白へと変わっていく。
地平線から、太陽が顔を出そうとしている。
「輪、起きろ」
「なんじゃ?」
「初日の出だぞ」
「そうか………ワシは寝る」
お前何しに来たんだよ。
寝るなら家に帰れよ。
こんな所で寝てたら、風邪引くぞ。
そうこうしている内に、太陽が顔を出す。
「初日の出見たのなんて、久しぶりだな」
「私は初めてです」
由貴の立場を考えると、それも珍しくないのかもな。
「よし、それじゃあ参拝の前に身を清めるぞ」
「はい」
「うん」
境内の手水舎で、身を清めます。
まず、右手に柄杓を持ち、左手を洗い清めます。
柄杓を左手に持ち替えて右手を清めます。
再び持ち替えて柄杓を右手に持ち、左のてのひらで水を受けて口をすすぎます。
柄杓に口をつけて口をすすぐことのないように注意してください。
左の手のひらを清めます。
最後に柄杓を縦にして、自分が持った柄の部分に水を流し、元の位置にもどします。
柄杓は伏せておきます。
「では、参拝に行くぞ」
「はい」
「うん」
神前に進み、姿勢を正します。
賽銭を賽銭箱に入れます。
鈴を鳴らします。
もう一度姿勢を正します。
二拝二拍手一拝の作法(ニ礼二拍手一礼の作法、あるいは、再拝二拍手一拝の作法とも言う)で拝礼を行います。
90度の礼で、二回拝みます。
胸の前で二回、拍手をします。
もう一度90度の礼で、一回拝みます。
以上
「恭ちゃんは何を願ったの?」
「んー、秘密」
「香は?」
「私も秘密だよ」
「そうか」
口に出すと叶わない、とかあるんだっけ?
知らないけどさ。
もちろん、神には何も願ってはいない。
いやだって、この由貴の背中で寝てるやつだからね。
こんなアホに何を願えと?
こんなのに願っている人達が、気の毒に思える。
「じゃあ家帰って、お雑煮でも食べようか」
「私も帰るね」
「じゃあ、またな」
「私、御節作ってますよ」
由貴さん、本当になんでもできるんですね。
感謝通り越して、尊敬します。
そんな風に平和な日常は過ぎていく。




