街は賑やか、お祭り騒ぎ
隠世から帰ってきて、時は流れ12月25日。
「今日はご馳走作りますね」
「俺も手伝うぞ」
「ワシは食べるのじゃ!」
お前も少しは手伝え。
もう大分、落ち着きを取り戻した。
今の環境で落ち着くくらいには、もう慣れてしまっている。
こっちに帰って来てからは、輪に
「お前は旦那として………」
と、長々言われたが、関係に変化はない。
既に貸しがあるから、そらなら1つも2つも同じだと、あまり気にしていない。
最終的には、踏み倒してしまえばいいと考えている。
輪はその辺感づいているから、俺に少しでも返せと言ってくる。
簡単なお願いなら聞くが、キスしろだとか面倒なものは却下している。
そもそも、毎回お前が伝言も無しに消えるから悪い。
役人みたいな立場のくせに、ホウレンソウを知らないのか?
結局、あの時は会議で隠世に行ってるだけだった。
それを聞いた時、飯抜きにしようと思ったのは言うまでもない。
心配して損した。
「私、家族以外と過ごすクリスマスは初めてなので、楽しみです」
………そうだな。
「なら、楽しまないとな」
「はい」
「ワシもじゃ」
「はいはい」
「お主、ワシだけ扱い雑ではないか?」
「気のせいじゃないか?」
「気のせいではないぞ!仕方ない、今日は美味いものを沢山食うしかないな」
(今日)はではなく、(いつも)の間違いだろう。
食うことがストレス解消になるのなら、沢山食わせてやろう。
そして、なにもかも忘れさせてやろう。
「食材買いに行くぞ」
「はい」
「ワシは留守番しておる」
コタツに入って丸くなってやがる。
お前は猫か。
猫みたいに、いつの間にかいなくなってても、探さないから安心しろ。
どこかのバカ神のように、放浪してくれていいぞ。
「私達で行きましょう」
「上着ないと外は寒いぞ」
世間はクリスマスだが、この2人で歩いていても、別段ロマンチックなことはない。
いつもの夕飯の買い物だ。
「由貴は何を作るんだ?」
「私はケーキを作ります」
作る人って、本当に自分で作るんだな。
スゴイとしか言いようがない。
料理をするからだろう、よりケーキなどお菓子を作る人がすごく見える。
隣の芝生ってやつかな?
「恭弥さんは何を作るんですか?」
「何も考えてなかった」
「………え?」
「最初はクリスマスっぽいもの作ろうと思ったけど、ローストチキンくらいしか浮かばなくてな」
「そうなんですか」
「どうせなら、由貴や輪の好きなものの方がいいと思ったんだ」
ちなみに、由貴は俺が作ったものなら何でもいいらしい。
輪は唐揚げが1番好きなようだ。
「唐揚げもチキンだろ? 揚げてるからフライになるけど」
「いいと思いますよ」
「由貴は何が食べたいんだ?」
「恭弥さんが作るものなら何でも」
何でもいいっていうのが、お母さん1番困ります。
「案だしてくれる方が嬉しいんだが」
「そうですね、唐揚げがありますから和食で、お寿司とかどうですか? 手巻き寿司なら、それほど手間もかかりませんし」
その案はなかった。
さすが由貴だ。
後は、簡単につまめるものを作ったらいいだろう。
「よし、それでいこうと思う!」
「はい!」
準備が終わり、まず輪に手本を見せる。
「輪、こうやるだぞ」
海苔に酢飯をのせ、好きな具材をのせる。
まずは基本で、大葉、まぐろ、卵だ。
今回はそれ用の海苔のため、巻き簾は使用しない。
「どうだ」
「おー、好きなのを好きなだけ入れていいんじゃな?」
「いいけど、巻けるくらいにしておけよ」
「わかっておる」
今回用意した具はまぐろ、海老、イクラ、卵、ツナマヨ、大葉、キュウリ、納豆などである。
輪は唐揚げも中に入れていたようだが、それもありだと思う。
由貴も楽しんでくれていたようでよかった。
「私はこれです」
由貴が持ってきたのはシホールのショートケーキだった。
「………すごい、美味しそうだな」
「恭弥さん、沢山食べてくださいね」
いや、結構お腹一杯です。
俺の場合、作ってる段階で味見を挟んでいる。
そして、唐揚げだけでなく、ポテトなど揚げ物があった。
そのため、まだお腹の消化が完了していない。
自分で取り分けると言う前に、由貴が俺にケーキののった皿を渡す。
「どうぞ」
「………ありがとう」
目の前には、皿をハミ出さんと主張するケーキの姿がある。
お腹が減ってれば喜んで食べるが、今はただの嫌がらせにしか感じない。
「い、いただきまーす」
とりあえず、まず一口。
うん、美味い。
そして、甘い。
クリームがこれでもかと胃を刺激する。
よし、食べよう。
そして、トイレに行こう。
そして、全部忘れてしまおう。
楽しい思い出も苦しい思い出も、全部水に流して新しい年を迎えよう。
「お主食わんのか? なら、ワシが食うてやる」
「………輪」
お前いいやつだったんだな。
ヤンキーが雨の中子犬を拾うくらい、いいやつだったんだな。
初めて、お前の有能さに気づいたぞ。
今まで、バカだアホだと言って悪かったな。
俺はお前が救世主だと信じるよ。
「救世主ー」
「な、なんじゃ」
輪に拝む前に、背後から冷気が漂う。
「………恭弥さん?」
「な、なんでしょう」
「そんなに、私のケーキ食べたくなかったんですか?」
「いや、そうじゃなくて」
「恭弥さん?」
「………はい」
「食べてくれますよね?」
由貴さん、笑顔が怖いです。
スゲー怖い。
だって、目が笑ってないもん。
食べます、食べますからその顔やめてください。
………そして、私はトイレのお世話になりました。
「はぁ、ヒドイ目にあった」
なんとか、トイレでクリスマスを終える、なんてことにはならなそうだ。
「恭弥さん」
俺を呼ぶ悪魔の声がした。
間違えた。
悪魔が俺を呼んでいた。
これでよし。
「なにか、変なこと考えてませんか?」
「そ、そんなことないぞ」
怖いので、その目でジッと見るのやめてください。
また、トイレに帰らないといけなくなる。
トイレで、サンタからプレゼント受け取らないといけなくなるから。
「まぁ、いいです」
フゥ、なんとか防衛ライン護りました。
「あの………これ、私からのクリスマスプレゼントです」
そう言って渡されたのは、水晶のようなモノが付いた携帯ストラップのようだ。
「あ、ありがとう」
「い、いえ。それ、ちゃんと携帯に付けてくださいね」
「わかった。何も用意してなくて、すまん」
「大丈夫です。私は沢山もらってますから」
………?
「じゃあ、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
由貴の言ってる意味はよくわからなかったが、今度何かお返ししよう。
空は暗く、 星が輝いてる。
今、この空の下では沢山の幸せが溢れているのだろう。
俺もその幸せの一部だったらいいな。
Merry Christmas‼︎




