説明回ですね、わかります
俺はなぜか、上も下も右も左もわからない黒い場所にいる。
「………ここは、どこだ?」
「ここは夢の中です」
後ろを振り向くと、見たことない女性が立っている。
「お前は?」
「私は美奈の中に封印された神の一柱です」
あの時の声の正体か。
「ありがとうございました」
「お礼を言われることは特にしていません。結局、あなたは上間を殴れなかったですから」
………え?
俺の記憶ではあのバカに近づいて、近づいて………あれ?
そこから記憶がないぞ。
「それは後で聞いてください」
「わかりました」
「私の名は天乃。上間よりも上位の神になります」
要するに神の先輩か。
でも、おかしくないか?
上間は自分の事を1番上の存在だと言っていたぞ。
「ただ、私が上間よりも上だったのは、もう数千年前です」
というと、どういうことだ?
「私はこの美奈の中に封印されました。それにより、一時的に力を失っています。その影響により、私の下であった上間が今は1番上となっているのです」
………なるほど。
「では、なぜあなたは封印されたのですか?」
「それは、今でもよくわかっておりません。色々調べはしましたが、決定的な証拠は見つかっておりません。ただ、神を封印するには同等の力が必要になります。そのため、神の関与があったのではないかと考えております」
「その推測だと、上間が1番怪しいように思うんですが」
「私も当初はそう考えていました。しかし、昨日のことを鑑みるに、違うと思われます」
………難しいな。
「私は力が封じられているので、何もできません」
「なら、昨日のアレはなんですか?」
「昨日は神が近くにいたことと美奈の心の影響により、なんとか使うことができました」
心の影響?
「ですが、私は封印された身です。なので昨日は上手くいきましたが、次もそうなるとは限りません」
説明はしてくれないんですね。
わかります。
「なので、後は上間が知っていると思いますので、聞いてください」
全部丸投げ⁉︎
マトモ人だと思った、俺がバカだった。
「神ですからね。人という枠では収まりきれません」
そうですね。
「はぁ、わかりました」
「では、もうすぐ夢が覚めると思いますので、くれぐれも美奈をよろしくお願いしますね」
そう言い残すと、全て黒く染まっていった。
目を覚ますと、知らない天井が見える。
「………お約束だな」
「なにがですか?」
「!」
突然、横から声がするからビックリした。
傍には由貴が立っている。
「身体は大丈夫ですか?」
ゆっくり身体を起こし、動かしてみる。
「………痛みなんかはないな」
昨日のことを考えると、指1本動かせないとも思っていたが。
「それは妾のおかげじゃな」
だから、突然声かけてくるなよ。
心臓に悪いだろうだろうが。
「案ずるな、心臓が止まったくらいならまた動かしてやる」
いや、案ずるわ!
なに怖いこと言ってんだよ。
俺はネジ回して動く、ブリキのおもちゃじゃないんだよ。
「妾が身体を修復した。だから、痛みどころか古傷も治っていようよ」
確かに、腕を見たら子供の時に残った火傷痕が消えていた。
「それは、ありがとうございます」
「うむ、謝辞は受け取っておこう」
原因作ったのはお前だけどな。
「そういえば、お前を殴ってないんだよな?」
「はい、上間様を殴る前に倒れましたから」
………そういうことか。
じゃあ、あの時最後に聞いた音はなんだ?
「あれは妾の頰に手が触れた音じゃな」
もう少し大きく振りかぶっていたら、よかったな。
でも、なんでそういうことになったんだ?
「そこはすまなかった。雰囲気に流されて、ヌシを煽ってしまった。まぁ、ああなるとは思わなかったがな」
「………天乃か」
「うむ。元々放浪癖があっての、今まで気にしておらんかった。だから、ヤツが消えてからも、勝手に戻ってくると思っていたんじゃが、こういうことになるとはな」
おい天乃、半分くらいはお前のせいじゃないか。
暇つぶしに旅してんじゃねぇよ!
今度夢で会ったら、1発殴ろうと決めた。
美奈を見ても、反応はない。
天乃言わく、美奈はその辺の事情は何1つ知らないらしい。
だから、自分の中に天乃が封印されていることも知らない。
「で、お前は関与してないんだな」
「もちろんじゃ。昨日始めてアヤツを見て、気づいたのじゃ」
「封印を解く方法は?」
「それは封印したモノにしかわからぬな」
「お前、神じゃないのか?」
「神というのは絶対ではないのじゃ」
いや、昨日絶対とか言ってたじゃん。
「神にもそれぞれ得意なことがあり、不得意なことがある。それは不得意であっても、ヌシらとは比べものにならんというだけじゃ」
そういうことなら、まぁ納得できる。
「神は等しく同列の存在。故に同等の力で封印されたモノは、その封印したモノでしか解くことはできん」
「心当たりは?」
「神という存在は無数に存在する。そして、気まぐれじゃ。妾も調べてもみるが、今はわからん」
「………そうか」
「妾にとってもヌシにとっても、そこにいる美奈と出会ったのは運がよかったな」
美奈には助けられたから、感謝している。
「そういうわけじゃから、美奈はこっちで預かる。色々と調べねばならんからな」
違法な人体実験とかされないよな?
「そのようなことはせぬ。もししようなら、天乃が黙っておらぬじゃろう」
なら、よかった。
「じゃあ、私達は帰りましょうか」
「そうだな………?」
なにか忘れてないか?
部屋の隅っこには、小さくなった輪がいる。
完全に忘れてた。
途中から、輪そっちのけで話が進んでいたからな。
「あの………輪さん?」
「………誰にも相手にされないワシなんか、消えてなくなればいいのじゃ。皆消えてしまえばいいんじゃ。世界なんて滅びてしまえばいいんじゃ」
なんか、呪詛吐き始めた。
「やかましいぞ、常立」
………常立?
「あぁ、表では輪と名乗ってるんじゃったな。コヤツのこちらでの名は常立」
なにか、理由でもあるのだろうか。
「えっと、常立さん」
「その名で呼ぶな」
はい、すみません。
「最初は、輪さん嬉しそうにしてたんですけどね。途中から………」
由貴はそう言って、上間を見る。
「妾のせいか⁉︎」
俺のせいではなかったか、よかった。
「ヌシのせいでもあるぞ」
「俺を巻き込むな!」
「そもそも、ヌシの理不尽な怒りのせいじゃろう!」
………そうだっけ?
「そうじゃ、神が嫌いとかなんとか」
そう言うなら、お前らの存在も理不尽だろう。
それに、暇つぶしとか言ったしな。
「そういえば、なぜ神が嫌いなんですか?」
「特に理由はない」
理由なんて、大したことはない。
ただ、自分で何もせず、神に祈るヤツが嫌い。
良いことは神のおかげで、悪いことは神のせい、という考えが嫌いなだけだ。
それで、神に怒りを向けるのは間違っているだろう。
でも、神を信じているから、神がいるからこういう考えが生まれるんだ。
だから、今回のはただの八つ当たりだ。
「上間、すまなかったな」
「妾もヌシを煽って、わるかった」
「輪でも常立でもいいけど、お前もわるかったな」
そう言って、部屋を出る。
後ろから、由貴が付いてくる。
「よかったんですか?」
いいも悪いも、俺が決めることではないだろう。
輪が帰らないのなら、由貴と一緒に帰るだけだ。
「由貴、どこから帰るんだ」
「案内しますね」
「由貴もわるかったな」
「いえ、私は恭弥さんの守護霊ですから」
「そうか」
「はい」
2人共、一言も話すことなく歩く。
「ここです」
そこは城と反対方向にあり、目の前に門がある。
そういや、ここまで来て、輪とまともに話してないな。
ほぼ、放置してたからな。
………それは、俺のせいか。
「じゃあ、行きますよ」
「あぁ、頼む」
「では………」
「ちょっと、待ってくれ」
振り向くと、輪がいた。
「輪、色々悪かったな」
「謝るな、ワシは謝られたいわけではない」
「そうか」
「お主が来てくれて、嬉しかった。途中から忘れられていたとしても」
すみません。
「ワシはお主の嫁じゃ。だから………今回のは貸しにしてやる」
「はいはい」
結局、憑いてくるんですね。
「感謝するのじゃ」
「ありがとうございます」
このデカイ貸しは、いつ返せるのだろうか。
「行くぞ」
「行きますよ」
扉が開き、光が溢れる。
2人に続いて、足を踏み出す。
………そして、光の中に消えていった。




