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唸れ、俺の拳




城の中は日本庭園が広がっていた。

これ絶対、その道の人がやってるよな。


「そういえば、ここに(りん)がいるんだよな?」

「そうですよ」

「………(りん)って以外と偉いの?」

「今更ですか? (りん)さんはこの隠世を統べる主の娘のような人です。そして、今はこの裏世界の代表者ですね」


………初耳です。

そういうことは先に言って欲しい。

俺が聞いたのは、裏世界の代表ってことくらいだ。

それ以外の大事な情報1つも伝えてないじゃないか。

これまでの行いで不敬罪とかならないよね?

そんなことになったら、知らんぷりして逃げるから。


「こちらにどうぞ」


どうやら、案内してくれるようだ。

城の中は広く、中に入るまでに距離があった。

案内人は無口のまま、中に案内してくれる。

話が通してあるのか、警備の者に止められることもない。

中は和風と洋風が混ざったもののようだ。

城の詳しい内部構造なんて知らないが、ホテルでもよくある、一室に畳もフローリングもある感覚に近い。


「こちらです」


案内された場所は他と違い、扉も重厚な造りのようだ。


「失礼します」


案内人がそう言って、扉を開ける。

………あなた意外と力あるんですね。


「ん? 恭弥か?」


(りん)がこちらを見て、不思議そうな顔をしている。

事前に伝えてあるんじゃなかったんですか?

その疑問に、由貴は答えてくれない。


「そなたら、よく来たな」

「お久しぶりです。上間様」



奥に立っていた、美人の女性が声をかけてくる。

由貴は知っているようだ。

………今、上間って言った?

漢字あってるよね?

それ言葉通りだと、神で1番上の存在みたいですが。


「そなたの考えは間違ってないぞ」


心の中を詠まれた。

(りん)達が詠めるくらいだから当然か。

この人達には、プライバシーというものがないのか。


「妾は上間。この隠世の主にして、神の王である」

「人間の向井恭弥です」

「天野美奈」

「………ほう。珍しいな」


それは俺に対してなのか、美奈の自己紹介の短さなのか、おしえていただきたい。

案内人はいつの間にか姿がない。

………仕事できますね。


「今日は何故に参った?」


(りん)を探しに来たけど、見つかった。

なら、


(りん)を返してもらいにきました」

「返すとな?」

「私はここまで案内しただけです」


由貴さん、それだと自分は無関係です、と言ってるようなものですよ。


「はい、私は無関係なので」


由貴が裏切ったー。

いや、まぁ確かに無関係だけど、俺の信頼をぶっだ切りやがった。

あれだけ颯爽と助けてくれたのに、あの優しさは嘘だったんだな。


「悲痛なモノローグはともかく、裏切ったわけではないですよ?」


そうだよね。

守護霊だもんね。

主を雨の日も風の日も、雪にも夏の暑さからでさえ守ってくれるデクノボーだもんね。


「それ、たぶん違います」

「面白いな、ヌシの共鳴者は」

「そうじゃろう」

「して、恭弥とやら、コヤツを返してほしいとのことだが」

「はい」

「ヌシは対価に何を払う?」


(りん)が何か言おうとして、上間に口を塞がれている。


「神なのに対価を求めるんだな」

「当たり前じゃな。コヤツは妾の腹心ぞ。抜ける穴は大きいからのぅ」


こっちでは使えない子だが、ここでは役に立ってるんだな


「妾は退屈しておる」

「退屈?」

「妾はもう何億年と存在しておる。詳しいところは覚えておらん。これだけ長いと、何か興がないとつまらんのだ」


なるほど、引きこもりにとってのゲームやパソコンだな。

というか、そっちが本心だろう。

ただの、神の暇潰しってことじゃないか。


「なんでもよい。ヌシが妾を満足させられるのであればだが」


上間を見る。


「ふむ、それでもいいが」


上間は、自ら体のラインを表すようにポーズをとっている。


「………恭弥さん」

「いや、そんなこと思ってないから」


決して、そういうことを思ったわけじゃないから。

いや、確かに綺麗だけども。

それだけだから。


「そんなこととはなんじゃ?」


さっきの挑発が嘘のようにシャンとしている?

コイツ、わざとやりやがったな。

神のくせに性格悪いぞ。


「神だからの」


理由になってないぞ。


「『神』それが理由じゃ。天変地異となんら変わらぬ。誰も抗うことはできない絶対的な存在じゃ」


それじゃあ、『神』を理由に全部諦めろということか?

バカバカしい。

俺は幽霊や神といった不可思議なモノを信じない。

俺が信じるのは俺の目で見えるモノだけだ。


「それなら、妾を信じるということじゃな」


………そうだ。

だが、決めていたことがある。


「その『神』とやらが存在していたら、1発ぶん殴りたいってな」


ごちゃごちゃと、そっちの事情はよくわからない。

けど、神とか運命とか、そういうモノを信じ、振り回される人生なんてクソくらえだ。

俺は神になんて願わない。

俺は誰でもない、自分の足で歩く。


「………ふむ、それがヌシの答えか。では、その足で進めるか、やってみるがよい」


その言葉と共に、床に叩きつけられていた。

背中には鉛があるように重く、立ち上がることができない。


「どうした? それじゃあ、まるで蛙のようだぞ」


上間はさっきと変わって、冷たい目で眺めている。

バカにしやがって。


「恭弥」

「恭弥さん」

「お兄さん」


3人共、体を動かしているが、身動きがとれないようだ。

せめて、3人は外に出すんだった。


「く………そ………」


声は辛うじてでるが、指先1つ動かすことができない。

由貴達も巻き込んで、このままでいいのか。

いいわけないだろうよ。

あのクソ神1発ぶん殴らないと、死んでも死にきれないだろう。

動けよ、身体。

殴ったら、地獄だろうと、どこへでも行ってやる。

だから、この1発だけ………。






(………承りました)


………美奈の声?


(あなたの想い聞き届けましょう)






………指が動く。

さっきまでと違って、身体が動く。


「な………なんじゃと⁉︎」

「自分の足で歩いてるぞ、クソ神」

「ど、どうなっておる⁉︎」


これで1発殴れる。

さっきの影響で、身体は上手く動かない。

だが、ゆっくりと神皇の方に歩く。


「く、くるな!」


その辺りにある物を投げてくるが、止まらない。


「………どうした、臆したか?」

「さっきのは謝るから、止めるのじゃ」


やめない、止まらない。


「あ………あ………」


上間は逃げることもできず、震えている。


「歯、くいしばれよ」


腕を振りかぶる。






「………ペチ」



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