Hello異世界
とこやんせ とこやんせ
きえまどふみたま つくとこありて
とわにかわらぬ おかみのもとへと
ねがいかなはば いけぬとても
「………フニフニ」
家の枕、こんなに柔らかかったか?
まぁ、気持ちいいからいっか。
「………んっ」
………もうちょっと。
………アレ?
なんか、声が聞こえたような。
寝ぼけながら、片目を開けるとそこにはよく見た顔が見える。
どうやら、木の陰で由貴が膝枕をしてくれているようだ。
「あの………もうそろそろ」
慌てて身体を起こすと、顔を見下ろす形になっていた由貴とおでこをぶつける。
由貴は痛そうにおでこをさすっている。
あっ、ちょっとコブなってる。
案外、石頭なんだな。
いやこの場合は、石でこかな。
「………イタタ」
「すまん」
「いえ、大丈夫です」
「………ここは?」
「ここが異世界いえ、呼び名は色々あるのですが、隠世と呼ばれることが一般的です」
「………隠世」
目の前には、沢山の人が行き交っている。
一目では、普通の人間と変わらないように見える。
川があり、畑があり、家がある。
こちらの世界いや、隠世か。
ここも、俺達の世界とさして変わらないな。
「行きましょう」
「そうだな、当てはあるのか?」
「たぶんですが」
それは、ありがたい。
この中を探し回るのは大変そうだからな。
「ただ、1つお願いがあります」
………お願い?
「私から絶対に離れないでください」
「それは、なにか理由があるのか?」
由貴は真剣な顔で説明してくる。
「ここ隠世では、生きた人間は基本的にいません。そして、生きた人間を摂り込むことで強力な力を得ることができます。もう、わかりましたね?」
要するに、ここ隠世では生きた人間はご馳走ってことだ。
だが、待てよ。
でも、どうやってそのことを隠すんだ?
「今は私の力によって、わからないように隠蔽されています。しかし、それも範囲がありまして、私の周囲2mなんです」
………結構狭いな。
身長高い人1人分だぞ。
まぁ、常に触れそうな距離、とかじゃなくてよかったよ。
「私が近くいる方が都合がいいこともありますから、絶対に離れないでくださいね」
「わかった、絶対離れないぞ」
「はい!」
なぜ、嬉しそうにする。
その言葉に他意はないぞ。
少し気になる所はあるが、今はおいておこう。
「それじゃあ、行きます」
「あぁ」
由貴について歩いているのだが、2mって意外と短いね。
歩くスピードがゆっくりだから、なんとか大丈夫だが。
なんか、すごいぎこちない歩き方になってしまう。
「えっと………恭弥さん」
「ん?」
「できれば、もうちょっと普通に歩いてほしいです」
はい、すみません。
これでも、2mを保とうと必死なんです。
「手………つなぎますか?」
いや、頬染めて言うのはズルいので止めてほしい。
恥ずかしがるなら、言わなければいいのに。
こっちの方が恥ずかしくなる。
「………由貴が嫌じゃなければ」
「そ………そんな、嫌とか全然ないですよ」
全然ない、が違う風に聞こえるので止めてほしい。
俺が出した手を、由貴がそっと握ってくる。
「由貴の手って温かいね」
じゃなくて、ちょっと待て。
ほら、由貴が困ってるじゃん。
恥ずかしそうに顔伏せちゃったじゃん。
手汗出てないかな、大丈夫かな。
あー、顔熱くなってきた。
フワリと風が頬を撫でる。
………風涼しいな。
それで、ちょっと落ち着いた。
いつの間にか、周りの人にジロジロ見られている。
公衆の面前でやっていればそうなるか。
「由貴。おーい由貴さん」
「アッ、いえなんでもないですよ」
なにも言ってませんよ?
「い、行きましょう」
おーい、由貴さん。
手と足、逆じゃないですか。
油足りてない機械音、出そうですよ。
由貴についてくしかないから、仕方ない。
ここは何も言わず、そっとしておこう。
これ以上言ったら、日が暮れる気がする。
由貴に手を引かれながら、街を眺める。
食材?なんかも、あまり変わらなそうだ。
あれ、あの肉まんみたいなの美味そう。
「今は我慢してください」
由貴が真面目モードに移行している。
これなら、大丈夫そうだな。
「もうそろそろ、着きますので」
見えてきたのは大きな………城?
周りには、城より他にない。
見た目は和風の城に見える。
にしても、門がデカくて高い。
縦も横も、手を伸ばしても全然届きそうにない。
そして、人気がない。
いるのは門番くらいだ。
「ここです」
目的地は城で間違いないようだ。
「動かないで、待っててください」
そう言って、門番の所へ行ってしまった。
たぶん2m以上離れてると思うが、大丈夫なのか?
人気がないから大丈夫なのだろうか?
………よくわからない。
「恭弥さん、城に入れるのは明日になるみたいです」
そう言うと、すんなり手を握ってくる。
手馴れたものだな。
なんでも、2度目は簡単っていうよな。
こっちは突然握られると、まだビックリするんだけどな。
「じゃあ、どうするんだ?」
「宿に泊まりましょう」
「わかった、俺はわからないから任せるよ」
「はい、では向かいましょう」
暗くなってきたが、電灯みたいなのはない。
だが、道は明るい。
なぜなら、赤い火の玉のようなものが浮いてるからである。
………うん、不思議だ。
理解するのに数秒要した。
それはそういうものだと思うことにする。
それで、やっと異世界に来たと実感した。
「恭弥さん」
「どうしたんだ?」
「部屋2つ空いてなくて………大丈夫ですか?」
「俺は平気だぞ」
部屋に進入されたこともあるから、問題ない。
部屋には大きなベットが1つ。
それ以外は、取り立てて説明するものがない。
「風呂はどうするんだ?」
「私達は汚れませんけど、物好きな人が行くように銭湯があります」
なるほど、助かります。
その物好きな人?とは仲良くなれそうだ。
………でも、待てよ。
2m以上は離れることになるじゃないか?
「由貴、絶対銭湯って2m離れるよな?」
「………そうですね」
「混浴もあるには、ありますけど」
結構です。
「いや、それなら我慢する」
混浴しに異世界に来たのではない。
これ以上は精神的の平穏が保てなくなる。
夕食を食べると、由貴は疲れたのか寝てしまった。
まだ眠くなかったので、外へ出て風に当たる。
宿は川の近くのようで、少し寒いが気持ちいい。
ここに四季があるかはわからないが、気温は近いようだ。
さすがに学生服じゃマズイということで、服を見繕ってもらったが、それが浴衣のように薄い。
向かい側から人が歩いてくる。
「こんばんは」
「こんばんは」
そう挨拶して、戻ろうとした所で意識が途切れた。




