残された普通
目を覚ましたらいつも通りの朝、なんてことはなかった。
由貴も輪もいる日常に元通りだ。
………これ本当に元通りか?
「………由貴」
「………はい?」
朝食中に声をかける。
「………昨日、守護霊とか言ってたよね?」
「言ってましたね」
「その辺、詳しく教えてくれるんだよね?」
「お主、ちと落ち着け」
落ち着いていられるか。
というか、元凶の一端であるお前には言われたくない。
「………私は特に詳しい説明を受けてなくてですね」
「ワシが話そう。どこから話したものか………」
地縛霊や守護霊については前に聞いた気がする。
なんでも、地縛霊は生前未練があった者や恨みや憎しみで死を自覚できない者が多いそうだ。
守護霊は生まれつきのなんらかの要因や生前の良い行いによって、人などを守ろうとする意思を持つものらしい。
「それで由貴じゃが、元々の生前の行いが良く、一旦未練があり現世に留まってしまったが、その未練が解消された。そのまま裏の世界に行くか、それともこちらの残るか選ばせられたのじゃろう」
「はい、私は恭弥さんのおかげで未練がなくなったようなものですから、守護霊としてこちらに残ることを選びました」
………なるほど。
言ってることはわかるが、どうにもな。
「………信じてください!」
………いや、信じてないわけじゃないんだけど。
「霊なのに実体があるってのはどうなんだ?」
「それは選べるみたいですよ?」
………選べる?
「例えば肉体や誰が私のことを視えるかとか、どこまで影響を与えるか決めれるみたいです」
………霊って、意外と細かい所まで決めれるんだね。
アフターサービス万全ですね。
由貴が楽しんでいるようでよかったが、
「………よかったのか?」
「………はい?」
「俺の守護霊とかで?」
「よかったです」
それはまぁ、よかった。
………でも、ちょっと待って。
由貴の未練がなくった→守護霊になった
………アレ?
このタイミングで言うのもなんだが、
「………由貴って一生いるの?」
「そうですよ」
そんな眩しい笑顔をされても困る。
ということは、俺は一生1人になれないということか。
「ワシもついておる」
お前はできるだけ早く帰ってくれ。
「………俺のプライバシーは?」
「その辺は大丈夫です。こちらから調整できますから」
それのどこか大丈夫なんだ?
その言い方だと、選択権は由貴であって俺ではないんだが。
「ちゃんと、恭弥さんの意見を尊重しますよ?」
………そこは尊重ではなく、絶対にしてほしい。
でも、待てよ。
由貴ができるなら、当然輪もできるんじゃないのか?
「………輪さん」
「な………なんじゃ」
「あなたができないわけないですよね?」
とりあえず、目から光を消しておこう。
「そ………そうじゃな」
俺の雰囲気に驚いたのか、輪は後ずさる。
「じゃあ、今後一切俺の心を詠むことを禁ずる」
「そ………それは後生じゃ」
「そして………」
輪の身体がビクッと反応する。
「お前が何を思ったか知らないが、俺はロリコンじゃない!」
「そ………それはじゃな」
とりあえず、輪は無視。
「由貴、身体って後で変更できるのか?」
「いえ、肉体は最初に設定してからは変更できないようです」
………なるほど、ならコイツは小さいままか。
「………で? 弁明はあるんだろうな?」
「そのじゃな、こちらの表の世では、何やら小さい子が人気あるとかでじゃな」
その情報どこで仕入れてきた!
そんな人気いますぐ爆発しろ。
「とりあえず、お前がその身体を選んだ理由はわかった」
輪は息を吐き出す。
「だが、そのなりのお前に手を出すことはないぞ?」
………あれ?
輪が固まった。
「おーい」
顔の前で手を振るが、反応がない。
………タダのシカバネのようだ。
この場合、言葉が適切かは不明だが。
「由貴もう学校行くぞ?」
いつものことなので声をかけたが、今まで通り学校に行くのだろうか?
「私は輪ちゃんが復活するのを待ちますね」
その返答だと、学校には行くようだ。
「じゃあ、悪いが輪のことは任せた」
「任されました」
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
輪のことは由貴に任せて、学校に向かう。
昨日のこともあるからな。
その辺は学校行って確認しないと。
「………恭弥さん行っちゃいましたよ?」
「う………うむ」
「どうするんですか?」
「うぬ………なんとかするしかないの」
………なんとかですか。
その手段があればいいのですが。
私もこの身体になってわからないことばかりですからね。
私よりも輪ちゃんの方が詳しいんでしょうが、その辺のこともまだお聞きしてませんからね。
この身体で見た目や年齢なんて言っても仕方ないでしょうし。
まぁ、私は恭弥さんの意見を尊重しますが。
「とりあえず、学校に行きましょうか」
「………そうじゃな」
輪ちゃんは問題を先送りにするようです。
私も輪ちゃんみたいにならないように気をつけなくては。
「………2人共遅いな」
「今日は珍しく1人なんだな」
「おはよー、宮野。まぁな」
「愛想つかされたとか?」
「そうかもな」
そう言って、苦笑いする。
そっちの方がどれだけいいか。
「そういや、昨日どうしたんだ?」
「昨日な………ちょっと体調悪くてな」
昨日のことだが、こちらでは普通に学校があっていたようだ。
学校に来るなり、職員室で確認したが、俺には連絡が繋がらなかったため、休みとなっていたようだ。
そのことは体調不良ということで誤魔化すことができた。
でも、なぜか一緒に休んでいた2人のことは聞かれなかった。
そこは深く考えるまい。
「おはようございます」
「おはようじゃ」
幽霊姉妹が教室に入ってくる。
なんとか授業には間に合ったようだ。
「もう授業始まるぞ、席に着け」
先生のその言葉で皆席に着く。
1限目は国語のようだ。
「じゃあ、授業始めるぞ」
「起立、気をつけ、礼」
「「「おねがいします」」」
今日もまた学校が始まった。
この時だけは、唯一俺に残された普通だ。
とは言っても、別に勉強が好きなわけではないので嬉しくないのだが。
今はその残された普通を楽しむとしましょう。




