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パーソナルスペースって大事

 


病院では軽く治療をしてもらったが、入院するほどでもなく、すぐに帰宅することになる。


「さて、これからのことなんだが………」

「それより、飯じゃ!」

「そうですね、急いで準備しましょう」


 もうそんな時間か。

バタバタしてて、そんなことも忘れていた。

思い出したらお腹減ってきたぞ。

そういえば、今日碌に食べてないな。


「俺も手伝うぞ」

「いえ、恭弥さんは座っててください」

「ん? いいのか?」

「はい! 今こそ胃袋を掴むチャンス‥‥‥」


 由貴はなにやら、ボソボソと独り言を言ってキッチンに向かう。


(りん)! お前もたまには手伝ったらどうだ?」

「ワシはそういうのはできん」


 そういうのだけじゃなく、基本何もできないだろう。


「失敬な! 何もできなくて、ここに居れるわけなかろう」


 そんなのわかるわけなかろう、だ。

 こっちの常識が一切通じないわけで、そっちのことも詳しく知っているわけではないからな。

そっちの事情を知るわけがない。


「なら、教えようぞ」

「いや、遠慮する」


 深く知ったら、それこそ面倒なことに巻き込まれかねない。

 そういうのを知らない内に、なんとかしなければならない。


「そうか‥‥‥それがいいかもしれんの」

「?」

「夕食できましたよ」

「待ちくたびれたぞ」


 さっき言ったことを、まるでなかったかのよう顔で立ち上がる。


「どうかしたのですか?」

「………いや、沢山作ったなと思ってな」


 パーティーでもないのに、沢山のおかずが並んでいる。

いつ見ても、由貴の料理は美味そうだ。


「今日は特別です!」


 はて‥‥‥今日なにかあったか?

 そんなことも御構い無しに、


「1番の自信作はこれです!」

 そう言って、肉じゃがの入った器を持ってくる。


「私の1番得意料理は肉じゃがです!」


 そういえば、花嫁修業をしていたと言っていたし、それで肉じゃがか。


「………どういうことじゃ?」

「この国では、肉じゃがが上手い女と結婚しろって風習だったらしい」


 なぜ、そうかは知らないが。

とは言っても、昨今は単純に相手の好きな物に変わっているようだがな。


「はい、母に聞きました」

「ワシとも結婚せい」

「いや、どちらともしないぞ。というか法律上できないぞ」


 年齢だけてなく、一夫多妻制ではないからな。

 まあ、この2人に法律が適用されるかはわからないが。


「法律なんて関係ありません!」

「とは言っても、結婚するくらい仲良くなった時には既に成仏してると思うぞ」


「………そうですね。それなら好きという気持ちを抑えて、ずっと憑く方がいいかもしれませんね」


 ‥‥‥それは勘弁してくれ。

俺の平穏な生活のために。


「それはやめた方がいいぞ」

「なぜですか?」

「何が起こるかわからんからな」

「それはお前もだろう?」

「‥‥‥そうじゃな」


 (りん)も、こっちにいられるのは3年みたいなことを言っていたからな。

 それでも、俺の高校生活が全て犠牲になる可能性はあるが。

 ………でも、ちょっと待てよ。

 由貴の未練というのは、恋愛すること。

 でも、俺を好きになったことでそれは成立して⇒成仏、ってことになるんじゃ。


「………そうじゃな」


 由貴は俺を好きだと言っていた。

要は惚れたってことだろう。

 ………それなのにどうして?


(りん)

「なんじゃ?」

「死んだ奴の未練を叶えられるのは一度だけか?」

「うむ」

「最初に願った未練を変えることはできないよな?」

「そうじゃな」


 俺は裏のことは知らないから、何が何だかわからない。

 (りん)は本日2度目の真面目な顔で、なにやら考えているようだ。

 この時は口を挿まないほうがいい。

人は学習する生き物なのだ。


「2人して酷いです。そんなに私を成仏させたいのですか?」

「‥‥‥未練があるといっても、長くいるべきではないのだ」


 (りん)にしては珍しく、いつもよりきつく言い放つ。


「………そうなのですか」

(りん)、なにかわかったか?」


 なにか思いついたようなので、話かける。


「もしかしたら………未練の恋愛というのが、好きになるという偶発的なことから継続的なものになった、ということかの?」


 もっと具体的に。


「‥‥‥もしかしたら、恋愛が未練である恋の延長ととらえられたのかもしれぬ」

「………というと?」

「恋というのは一方的であるが、恋愛というのはそうではなく思い合う男女によるものじじゃ」


 まあ、それはそうかもしれないが。


「由貴が恋をした時に、強い思いでなんらかの異変が生じた、と考えてみたものの本音はわからん」


 結局、わからないのか。

成仏できないのは、この世に未練という強い思いがあるからだと言っていた。


「それなら、思いの強さでどうにでもなるってことなのか?」

「それはわからんが、本当の意味で強い思いでならありえるのかもしらん」


 ………本当の意味で?


「それなら、私の恭弥さんへの思いは本物ということなのですね!」


 仮定通りなら、まぁそうなるのかな。


「2人共幸せにすればよいのじゃ。未知の部分も多いが、結局はそこに繋がるのじゃから、それをしてたら、いつか答えはでるのではないか?」


………いつか?

 途方もないな。

これから進めていく上で、その未知の部分をなんとかしないといけないんだろうな。

タイムリミットはあと3年なんだが。


「本当に不思議多きことよな」


 不思議代表がそれを言うな!

幽霊が「自分は幽霊じゃないです」って言うようなもんだぞ。


「まあ、確かにの」


 そこは否定しろよ。


「それじゃあ夕食にしましょう!」


 嬉しそうな顔でご飯をついでくる。

 結局、俺の苦労が増えるばかりなんだな。

せめて、利子くらいは返済したい。


「苦労は買ってでもって、とも言いますよ」


 ………あれ? 

今、俺口に出したか?


「もしかして、由貴お前‥‥‥」

「私にもわかるようになったみたいですね」


 そんな、嬉しそうに言うことでもないだろう。


「だって、嬉しいですもの!」


 ………これは間違いないな。

 なんてことだ。

 どんどん追い込まれていないか、俺。

どんどん、プライバシー削られていくぞ。

もはや、俺にパーソナルスペースはないんだな。


「お主もわかるようになったのか?」

「はい! 思いの強さですね!」


 これ以上強くならないでくれ。

 どうなるかわかったものじゃない。


「なんじゃ、2人の美女をはべらせまだ不満か!」


 不満も不満、大不満だよ。

 俺がはべらせているわけじゃなく、お前らが憑いてるんだろう。


「そうです、憑いているのです」


 開き直りやがった!


「憑いているからには幸せにしてください!」

「そうじゃ!」

「「2人共」」




………なんで、そうなるの。




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