93 白き鬼
続きです。
ペロペロと胸を這うくすぐったい感触と腹部に僅かな重みを感じて僕は目を覚ます。目を開ければ雲一つない晴れ渡る空が見え、何時の間にか高く昇った太陽が燦々と輝く眩しさに目を細める。
「あれ? 何時の間に昼にって、いたた!! 一体何が……」
いきなりガリっと硬い何を立てられた痛みに首を向けると、白髪頭のつむじとあるものが目に入り身体が強張る。そうだ、僕はこの子に殺されたんだ……ステータスに表示される残機はそれを証明するように一つ減っていた。
「あなた何者? 確かに心臓を潰したはずなんだけど」
「……」
「瘴気も無いし、特別な能力も持っていない。なのにあなたは生き返った。なんで?」
僕の胸にべったりと着いた僕の血を舐めている女の子は、視線をこっちに向けずに淡々と質問してくる。人を一人殺したことを何とも思っていない様子で。どうしよう、漏れそう。
「味も魔力も普通なのに、どうして?」
「……」
「ねぇ、起きてるよね? 私とは話したくないの?」
淡々と質問していたのを僕が無視しているとでも思ったのか、次第に感情がこもりガジガジと歯を立て始めた。やばい、機嫌が悪くなってきた。このまま無言だったらまた殺されるかもしれない。と言うか何で齧ってるの!? 本当に怖いんだけど。
それにもし残機の話しをしても信じて貰えなかったら、余計に機嫌を損ねるだけだから、うー、とりあえずお茶を濁すために自己紹介からいくか。
「ぼ、僕は鏡太陽。き、君は?」
緊張で声が震えて情けない自己紹介になったが何とか言葉を発する事が出来た。
「そんなの聞いてない」
「だ、だよね! あはは……」
きっとこの子には僕の心臓が早鐘を打っているに気づいてるだろうな。あー、誰かこの状況をなんとかしてくれ。
『グオオォォォ!!』
「……」
緊張やら焦りやらでいっぱいになっていると、遠くから聞いたことの無い獣の雄叫びが耳に届く。けれど、距離が離れていると分かっていても本能的に身を震わせるそれは間違いなく、この世界で最強と言われる存在のもの。
「龍……に、逃げなきゃ」
「私の質問に答えてない」
「ちょ、君にも聞こえたでしょ?!」
「聞こえてた。けど、だからなに?」
「何って……」
「……分かった。私がやっつけてくるから、その後で教えてね」
「はっ?」
とち狂った事を言い出した女の子はそこで初めて顔を上げた。日に照らせれて鮮明になった素顔は作りこまれた人形のように綺麗で、額に生えている禍々しい二本の角でさえ美しいと思えてしまう。そして背中にいきなり生えた翼は僕が見た幻想では無かった。
魔人 レベル????