91 不運は続く
続きです。
事の発端は三ヶ月前、僕がこの世界に召喚されてから半年が過ぎレベルが30になった頃の話だ。
天の国の騎士達に介護されながらちまちまとレベルを上げていた僕もついにユニーク魔法を獲得し、これから僕の時代が来ると浮き立ちながら報告をしに行ったのが運命の分かれ道だった。
「ほぅ、そなたもユニーク魔法を獲得したとな。それは上々だ。して、どのような能力なのだ?」
「えっと、眷属召喚と言うものです。危なくないので今見て貰えばすぐに分かると思います」
「そうか。勇者殿のユニーク魔法は素晴らしいものばかりだからな、期待しておるぞ」
「はい!」
僕が獲得していたユニーク魔法は眷属召喚。その能力は文字通り眷属を召喚することが出来る魔法だ。召喚される眷属はランダムで、消費MPと僕のレベルに比例して強さが変わるようになっている。そして一度召喚すれば登録ができ、もし死んでしまっても僕のMPがある限り、何度でも呼び出す事が出来るという優れもの。本質が事なかれ主義の僕にとってこれ以上ない相性の魔法だった。
「よし、出て来い! 『黒豆』」
ポン、と音を立てて僕の足元にサッカーボールぐらいの大きさの黒いスライムが現れた。
「……死塊、か? これは早急に」
「今はこんな弱そうなスライムしか召喚できな――って、どうしたんですか?」
「いや、うむ。これはまた素晴らしいな。貴殿にはこれから活躍して貰わないといかんな」
「はぁ、ありがとうございます。精進します」
何故か険しい顔をしながら黒豆を凝視し何か独り言を呟いた後に、無難な激励を受けて会話は終了した。
そして、報告を終えた翌日には僕は理由も分からないままに、天の国の騎士達やクラスメイトに追われる犯罪者に仕立て上げられていたのだった。
どうにか黒豆の能力で残機も減らさずに国外に逃げることに成功したけど、お金も食料も衣服も殆ど無く、しかも他国にまで指名手配されるというまさに踏んだり蹴ったりの状況だった。
そうして現在に至り、今も進行形で森の中を黒豆と一緒に逃げている。
「道化の救済者とか言う奴等がいなければ、僕はこんな目に合うことも無かったんだぁ!! 」
『だ、か、ら、静かにしてよ! 森の中には魔物もいるんだからね!!』
「分かってるけど、叫ばずにはいられないよ」
『もぅ。300メートル先、右ね』
「うん」
情報でしか知らない犯罪組織に恨み言を叫びつつ、黒豆のナビを頼りにしながら東も西も分からぬ獣道を、ひたすらに駆ける。
「はぁ、はぁ。これ何処に向かっているの?」
『追っ手を巻きつつ、魔物がいない方向かな』
「くそぉ、またしばらく野宿生活に逆戻りかぁ」
『文句言わないの、そもそも太陽が変装するのをうっかり忘れたのが原因なんだからね!』
「それはそうなんだけど――ッ! 地震だ!!」
『うわうわ、地面が揺れてるよ!』
レベルが上がって話すことのできるようになった黒豆を頭に乗せて、あーだこーだ言い合いながら走っていると、馴染みのある揺れを感じてすぐに結界を張る。
「結構大きいな。この世界に来て初めての地震じゃないか?」
『うぅ、世界の終わりだぁ』
「いやいや、そんな大げさなものじゃないから。ただの自然現象だから安心して」
頭の上でぽよぽよと慌てる黒豆を落ち着かせようと言葉をかけようとしたが、最後まで発せれなかった。なにせ僕の立っていた地面が揺れと共にビキビキビキと不穏な音を立てて、ぱっかり割れてしまったのだから。
「あぁぁーー!! ほんと最悪だぁぁぁ!!!」
『ひゃあぁぁぁぁ!!』
底の見えない真っ暗闇に落ちていく恐怖で小心者の僕はいとも容易く気絶したのだった。




