9 港での1日と出発。
あれからジークと2人で港町を散策し、新鮮な魚介類を堪能した。行く先々で頭を撫でられおまけを付けてくれるお店が多かったのは嬉しい誤算だけど、俺を子供扱いし過ぎでは?
ジークなんて毎回俺が子供扱いされている様子を見て笑ってたしな。そんなに子供っぽいのかな、自分の容姿がわからない所為でなんとも言えない。もしかして、ジークと手を繋いでいたから妹とかと勘違いされたのかな?
「まさか金貨1枚分も食材を買うとは思わなかった。」
「だって、魚介類美味しいじゃん。」
「確かに美味いけどよ、それどうするんだよ?」
「料理するのに使う。」
「えっ、エミルって料理出来たのか?」
「あれ? 知らなかった?」
ちょくちょく料理は作ってたのに気付いてなかったのか。
「今夜の夕食は楽しみにしといて。」
「せめて食べられる物を作ってくれよ?」
「ジーク生意気。」
昼は食材探しとお店の冷やかしをして、午後からは食後の運動がてら討魔ギルドにお邪魔する事にした。
討魔ギルドとは魔物の討伐や素材の買取などを行なっている場所だ。依頼を受ける人はギルドに登録し、討魔者となる必要がある。討魔者は国騎士と同じく男の人に人気らしくて大抵の人が登録しに行くんだとか。
討魔者は魔法と同じく階級に分けられて、SS〜Eランクという分けられ方をしている。ランクが高い程強さの証明みたいな感じで男の人は上を目指して、無理な依頼を受けて命を落とす人も少なくないそうだ。
そして、この強さの証明には男女問わず魅力的な物らしく、女性でも憧れるみたいだ。
俺とジークは一応登録だけはしてあるけど、依頼を受けた事は一度もないため最低ランクのEランクだ。
何故登録したかと言うと、バルドさんに勧められたからって言うのもあるけど、ギルドの恩恵を享受するためだ。
登録してカードを持っていると素材の買取の手数料は無料だし、ギルド内の施設も使い放題なので損は無い。
今日は闘技場を借りてジークと時間を過ごすつもりだ。
「本日はどの様なご用件でしょうか?」
「闘技場の使用をお願いする。」
「了解しました。それではカード提出をお願いします。」
「どうぞ。」
「ほい。」
「……Eランクのジーク様とエミル様ですね。闘技場は地下に有りますので右手の階段から降りて下さい。」
「ご丁寧にどうも。」
闘技場に着くと人が結構いた。俺たちと同じように腹ごなしに訓練してるのかな。
「それじゃ、今日はどうする?」
「私はこれで。」
そう言ってアイテムボックスから短剣を取り出す。
「今日は短剣か。」
「うん。運動には丁度いいでしょ?」
「俺、エミルの短剣は嫌いなんだけど。」
「知らない。」
「くそ、昼間の当てつけか。」
嫌そうにしながらジークは刀を取り出した。
「じゃ、始めるよ。」
「来い!」
ジークは全身に身体強化の魔法をかけるが遅い。一瞬で俺は身体強化で間合いを詰め、脇腹に蹴りを放つ。
「相変わらずとんでもない速さだな。」
「ジークは遅い。」
ジークは何とか刀身で蹴りを受け止めていた。
「魔剣じゃ無かったら確実に刀ごとへし折られてたわ。」
「次はへし折る。」
「出来るものならやってみろ。」
魔力の入る武器は全て身体強化と同じ様に強化すると事が出来る。しかし、魔力が無いと紙すら切れない鈍になる。そのため魔剣を使いこなせる人は少ない。
今度はジークが刀を使い攻めてくるが、その尽くを短剣でいなす。
「これだからエミルの短剣はっ、嫌いなんだよ!」
「ジークよわーい。」
「くっそ!」
身体強化は俺の方が精度が上なので瞬時に出力を切り替える事で、ジークは翻弄されていた。
しばらく受けに徹していたけど、ジークは全てをいなされて苛立ったのか攻撃が力任せになり単調になってきた。
これは一旦仕切り直しだなぁ。
上段から振り下ろされた刀をいなすのでは無く、 今度はこちらが力で弾き返す。いきなり弾き返されるとは思っていなかったジークは腕が跳ね上がり腹が無防備になった。
そこに回し蹴りを放つとジークは勢いよく闘技場の壁に飛んでいった。そこで俺の攻撃は終わらず、壁に叩きつけられて体勢を立て直す前に肉薄する。
苦し紛れに振るう刀を身体を捻って躱し、顎に掌底を放ち意識を刈り取る。
気絶して壁にめり込んだジークを引っ張り出して元の位置に戻る。さて今日は何回気絶するかな?
◇
夜になるまでジークは三度の気絶を繰り返した。
「いてて。やっぱりエミルは強いな。放出魔法無しでも勝てる気しないわ。」
「ジークは搦め手に弱い。私の闘い方をよく知ってるはずなのに。」
「そんな事言ってもなぁ。」
「ジークは我慢が足りない。今後の課題。」
「それは俺も分かってる。」
2人で闘技場での感想を言いながら宿に帰り、俺が今日買った食材で夕飯を作って港での1日は終了した。
そして次の日、法の国行きの船が出るまでの間、お互い宿で武器の手入れと荷物の整理などを行い暇を潰しておいた。
「そろそろ行くか。チケットは持ってるよな?」
「あるよ。」
「そういや、エミルは船に乗るの初めてだよな?」
「そうだよ。」
「なら船酔いには気をつけろよ。」
「なにそれ?」
「あれだ。体調悪くなったら直ぐに教えてくれ。」
「? 了解。」
船酔いってなんだろ? お酒みたいに酔っ払うのかな。
疑問に思いながらも船に乗る。順調に進めば3日ぐらいで法の国に着くみたい。船で3日も何して暇を潰してようかな? 釣り道具があるから魚釣りでもしょうかなぁ。
なんて考えていた自分が馬鹿だった。
船が出港して僅か数時間後船酔いに苦しめられた。地面が揺れているとこんなに気持ち悪いのか。食欲すら湧かないよぉ。
「ジ〜ク〜、気持ち悪いよ〜。」
「やっぱりか。俺も最初はエミルと同じだったからその辛さは分かるぞ。」
「後どれくらいで着くの?」
「後3日かな?」
「そんなー。」
「こんな弱々しいエミルは久しぶりだな。」
法の国に着くまでの間ジークは嬉しそうに、あれこれと世話を焼いてくれるのだった。
金貨1枚10万円程度の価値だと思って下さい。