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85 概念記録

続きです。

「ハシュマー!!」

「おっと、下手に動くとお友達が死んじゃうよ」


奴が指を動かすだけで、友人達は手に持っている刃物を自身の首に突き付ける。


「ひぃ!」


隷属に似た能力を持った魔法か。俺達に効果が無いのを見るに、恐らく何かしらの条件があると思っていいだろう。


俺は仮面付きに悟られないように素早くハンドサインを送り、ミサキ達に辺りを警戒して貰う。


「何が目的だ」

「さっきも言ったと思うけど、僕は君達とお話しがしたいだけなんだ。殺し合うつもりは無いよ」

「人質を使ってまで、話しておきたい事とは何だ?」

「せっかちだなジークは。まぁいいや、僕達の目的はエミルちゃんから聞いているだろ?」


最初にエミルから聞いた時は、人類救済を建前に殺戮を楽しむ集団だと思っていた。この襲撃が起こるまでは。


「あぁ、遠くない未来に訪れる魔王の厄災で人類の被害を減らすのが目的だろう。そのためにお前達がエミルを犠牲にしようと、企んでいる事も知っている」

「うんうん、その認識で間違いはないよ。それに関して君達に言っておきたい事があるんだ。僕達、道化の救済者(クラウンリライフ)はこれからも今回と同様の事件を起こす。これは揺るぎない決定事項だ。それを邪魔するのも、無関心でいるのも、君達の自由だ。ただ僕達は、君達個人には決して手を出さない」


個人には手を出さない、裏返すとエミルや目の前にいる友人は手にかけると言う意味だろう。回りくどい警告だ。


「同情のつもりか?」

「まさか。君達には、君達にしか出来ない役目を担って貰わないと困るからね」

「役目だと?」

「いずれ分かる時がくるよ。他に聞きたいことはあるかい」


エミルの所に急ぎたい気持ちがあるが、これだけは聞いておかなければならない。


「お前達は何処でその情報を手に入れたんだ?」

「それは勿論、ユニーク魔法だよ。ジークが想像している通りのね」


認識に、隷属、更には情報に特化したユニーク魔法か。随分と厄介な手札を持っているな。


概念記録(アカシックレコード)、過去のあらゆる事象を知る事が出来る凄い魔法さ。しかも、対象を人に絞ればその思考や感情までこの手の中だ」

「……チートじゃねえか」


思考や感情まで知られてしまったら作戦は筒抜けだし、対策すればするほど裏目に出るだろう。ただ、あの神は望んだものが強大であればあるほど、デメリットも大きくなる魔法しか授けてくれないはずだ。


そんな魔法を酷使すれば使用者がどうなるかなんて、こいつらも理解しているだろう。手段を選ばなければ別だが、どれだけの犠牲を払えば発動出来るかなど考えたくもない。


「あはは、それはお互い様でしょ?」


君達のユニーク魔法も全て知っているよ。暗にそう言っているようだ。


「とっ、そろそろ頃合いだね。それじゃ、シーユー」


パチンと指を鳴らすと仮面付きはその場から姿を消した。くそ、一度も主導権を奪うことが出来なかった。


姿が消えると同時に魔法の効力もきれたのか、人質は全員解放されていた。それでも念の為にハシュマーのユニーク魔法を使って貰い、魔力を吸収しておくのも忘れない。


「俺達はこいつらを安全な場所に連れて行く。だから、ジークは先に行け」

「無事にエミルちゃんと合流出来たら、連絡をください」

「あぁ、頼んだ」


魔力を吸収して動けなくなった人達をレオン達に任せて駆けだそうとした時、こちらに向かって涙でぐちゃぐちゃな顔をした二人の獣人を見つけた。


けれど、肝心な少女の姿はそこになかった。


もう少しで二章が終わります。

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