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81 有象無象

更新時間がバラバラで申し訳ないです。続きです。

「安心して下さい。冥途の土産に僕達、道化の救済者による素敵な贈り物がございます! ん? 僕の言っている意味が分からない? でも大丈夫、どちらにせよ結果は変わらないから。さぁさぁ、イッツショータイム!!」


姿は見えず声だけが日の沈んだヴァールテクス全体に響き渡り、それを合図に次々と魔物が進軍を始めた。


「おい! 魔物が降って来たぞ!!」

「嘘だろ!? 国の警備はどうなってやがる!」

「きゃぁぁーー!!」

「逃げろぉぉ!!」


空から陸からとあらゆる場所から出現した多種多様な魔物は、互いに争う事はせず何者かに操作されているかのように人類だけを的確に狙って襲っていた。狙われた住民達は安全だったはずの場所が突然死地に変わったことで、我先にと蜘蛛の子を散らす様に逃げ惑っていた。


たった数分の内に、笑い声や客引きで賑わっていた街は悲鳴と怒号、そして血潮が入り混じる地獄と化した。


そして、その余波がエミルの家まで届くのに然程時間はかからなかった。


『緊急警報発令。只今、市街地にて複数の魔物の存在を確認。近隣の皆様は急いで指定された避難所に避難してください。繰り返し報告しますーー』


首都のそこかしこに取り付けられていた魔道具から繰り返し警告する放送が流れていた。


「エミル様、逃げる準備を」

「もう遅い。囲まれている」

「しかし、魔物の反応は……」

「違う、これは人間」


あのふざけた宣戦布告から直ぐに俺の家を囲う形で複数の魔力を感知した。ブラン達は獣人だから普通の人種に比べて五感が鋭いけど、流石に逃げ回る人間とそうでない人間を区別することは出来ない。それに魔物のことを念頭に置いているから、逃げる人に乗じて潜伏されたれら気付けないだろう。


「盗人か、首謀者の手先かは分かんないけど」


どちらにせよ、まともな奴らではない。


「申し訳ございません。気づきませんでした」

「気にしないで」

「どうするさ。このまま家に籠っていても、いずれ魔物がやって来るよ」

「やはりこういう時のために、地下に抜け穴でも掘っておくべきでした」


ジークが言ってたように、もし相手が魔物を統べる力を持っているのだとしたら面倒になる。人間と魔物の両方を捌くのはブラン達がいても無傷でいられるのは不可能に近い。


「正面突破」


本当はジークと合流して逃げたかったけど、ここで待ち続けるのは不味い。それに不幸中の幸いか戦闘能力が未知のメリダが薬の補充でこの場にいないし、いざという時の合流地点も一応決めてある。だったらこれしかない。


「エミルならそう言うと思ったさ。まぁ、お姉ちゃんもそれしか無いと思っていたから賛成だけど、やり合うのだけは禁止ね。逃げることだけ考えて」

「立ちはだかる障害は私とノワが排除しますで、ご安心ください」

「二人の実力は知っているけど、無茶はしないで」


二人共ジークと同じぐらい俺にとって大切な人だから、見殺しには出来ないし犠牲にもなって欲しくない。


「分かったわ」

「承知しました」

「よし、行こうか」


綿密な計画なんてものは無い、単純にして明快。身体強化を最大限まで高め、玄関から最速で駆け抜ける。


「出てきたぞ!! 捕えろ!」

「これで俺達も金持ちだ!」

「排除!」

「邪魔さ!」


目の前に立ちはだかる男たちを俺の前に出たブラン達が拳に装備した鉤爪で切り裂き、一瞥もしないで走り去る。けれど、男の発した言葉に反応した奴らがぞろぞろとこちらに向かってくる。


くそ、やっぱりあいつら碌でもない連中を雇いやがったな。


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