77 対策
続きです。ジーク視点です。
エミルから教えて貰った情報を俺一人で処理するには無理だと判断し、ミサキ達に連絡をしたら直ぐに集まってくれた。皆んなエミルが俺に抱えられて出て行く姿を見ていたので、気になっていたらしい。それでも、現状俺の家に来るのは躊躇われるマリにファルス、ハシュマーまでもが来るとは思わなかった。
全く、とんだお人好しばかり集まったもんだ。
「エミルちゃんに何かあったの?」
「道化の救済者と接触したみたいだ」
「みたいって、ジークさんは会ってないのですか?」
「それはーー」
集まってくれた全員に先程聞いた情報を伝える。そうするとやはり案の定、魔王の厄災の言葉が出た瞬間に全員の顔が深刻になった。しかしこう真剣になるのは当たり前の事だ。だって俺達は、この厄災から生き残るために神からの恩恵を受けたのだから。
「それで、エミルちゃんは大丈夫なの?」
「口では大丈夫と言っているが、ベッドからまだ自力で起き上がれていない状態だ」
「そんな……一体何の薬が注入されたのですか?」
「確証は無いがエミルが言うには、魔力抑制剤が二本打ち込まれたらしい」
「嘘、だろ……二本とか」
魔力抑制剤は本来、Aランク相当の強力な魔物相手に使用する貴重なものだ。生産するのに莫大な時間とコストを必要とするために、国の直轄の魔物研究所や国土を脅かす魔物の討伐隊が編成される時のみしか配布されないと聞く。
薬の効果は文字道理、魔力を抑制するただそれだけ。けれど、人間なら少量でも死に至る劇薬だ。この世界の生物全ては無意識的に生命活動に魔力を消費しているために、魔力を抑制されると言うことは血の流れを抑制すること同義なのだ。
心臓、肝臓、腎臓、肺、その他諸々の重要な器官の機能が停止し始めれば人間はあっという間に死ぬ。どれか一つだけならまだ助かる可能性はあるが一斉に機能しなくなると手の施しようが無い。
今エミルが生きているのはひとえに魔力量が多かったからだ。恐らく無理やり循環させているのだろう。今回はエミルが普通の女の子じゃなくて本当に良かったと感謝してる。
「今はブランとノワが付きっきりで看病しているから、心配は無い。それに医者も手配済みだ」
「医者って大丈夫なの? そのエミルちゃんって」
「その辺もちゃんと考慮している」
いざという時に頼りになる医者をハザックさんから教えて貰っており、この国に来てからの挨拶回りで実際に一度会った事があるが、優しそうな女医だったのを記憶している。
「うふふ、エミルちゃんの事は、ジークに任せておけば心配ご無用ね」
「当たり前だ」
「即答とは感心するわ」
「……だから、俺達は俺達が出来る事をしよう」
「そうね」
何でマリが嬉しそうな顔してるんだよ。
「まず確定しているのは奴等は複数人いるという事、そして、俺達と同じ転生者だ。エミルを狙っているのは魔王の厄災を阻止する為と、向こうは何かしらの情報を握っている。更に魔物の襲撃事件にも絡んでいると、こんな所か」
次の襲撃がエミルのいる首都ヴァールテクスになるのか、それとも別の場所で起こるのかは分からない。
「だとしたら、間違いなく全員何かしらのユニーク持ちだよね。あれ、神さまにリクエストして貰った物だから、正直何でもありなんだよねー」
ミサキの言う通り、神さまに貰った魔法は自分で能力はある程度決める事が出来た。
「相手は魔物より対人に特化した魔法なのかもしれませんね」
「隣にいても気付かず、結界にすら引っかからないステルス魔法。やりたい放題出来るわね」
「なら、アイツらが持っている情報もユニーク魔法で仕入れたって可能性があるのか」
「確かにその可能性はあるが、態々情報を知る為だけの魔法を神に頼むか? 情報だけじゃ、この世界で身を守る事は出来ないだろう」
それは俺も思った。神さまに魔王の厄災から生き残るようにと貰った恩恵を、情報を得るのに特化させる意味は無いはずだ。
「その辺は今話し合っても答えは出ないから後回しでいい。今はエミルをどう守るかが問題だ」
「難しい問題よね。相手にステルス魔法がある限り、周辺を固めても意味をなさないし、薬をまだ持っているとしら対策のしようがないわ」
「でもさ、そんなチートみたいな魔法があるなら、何で襲撃なんて陽動紛いな事をするんだろう」
「そうしなければエミルさんを攫う事が出来ない、からでしょうか」
話し合えば合うほどに新たな問題が出てくる。エミルが調子を取り戻すまでに何か策を用意しておかないとな。
作者のモチベが向上しますので面白い、続きが気になると思ったら感想等お願いします。