8 旅立ち。
そして、ついに和の国から出発する日になった。
「ジーク、私の荷物は?」
「ちゃんとあるぞ。」
「ありがと。」
「無くさない様にしまっとけ。」
「はーい。」
手渡された荷物をアイテムボックスに収納する。この魔法は魔力量に依存して収納出来る上限が決まるだけであって難しい魔法では無い。確か放出型の第5級だったはずだ。
ジークと2人で手配した馬車を待つ。城の皆んなとは昨日のうちに別れを済ましているため此処には俺とジークしかいない。
「馬車も船も何から何まで手配済みに、軍資金として金貨10枚だろ? ほんとお人好しだよ、この国の人達は。」
「そんな人達が私は好き。」
「ふっ、俺もだよ。」
たった数年だったがこの国と人達が大好きになった。蹄鉄の音が聞こえてくるまでお互いに無言で、今までの事を思い出し感慨に耽っていた。
◇
やってきた御者に馬車を貸してもらい港まで向かう。法の国は海を渡った先の大陸なので船に乗り換えて向かう事になっている。
馬車はジークが御者をやっているので俺は一応周りの警戒をしておこう。範囲の魔法を広範囲に設定して探知の魔法を使う、無いとは思うが外敵に備えておく。
俺は1人で生活出来る様になったのは4つの魔法を常時発動しているからだ。それは身体強化と範囲、反響、探知の魔法だ。
身体強化で身体を動かし、範囲で自分の周囲を指定し、反響と探知で範囲内の物を感じ取り把握する。バルドさん達には呆れられたが、この方法が2年間の試行錯誤の成果なので致し方無し。もっとも別の方法があるのならそっちに変えるだけどね。
「そんなに気を張らなくてもいいんじゃないか? ここの魔物は比較的に弱いからな。」
ジークには俺が魔法を使っていることがばれている。師匠もそうだけど、魔力に精通している者には相手が魔法を使っているかどうかは感覚的にわかるみたいだ。
「油断は禁物。私は弱いから。」
「そういう事じゃなくてな、少しは俺に頼ってくれ。」
「だってジーク、私よりも弱いじゃん。」
「うっ! それを言うなよ……」
「それに師匠から学んだでしょ?」
戦闘において慢心するべからず。魔物相手には1番してはならない行為だ。
「分かっているけどよ、法の国までの道のりは長いんだ。最初からそれだと身が持たないぞ?」
「安心して。一ヶ月以上でも余裕だから。」
「はぁ? 意味わかんねー。」
「それより港までは後どれぐらい?」
「あー、夜には着くと思うぞ。」
「馬車使うより走った方が速くない?」
「確かにそうだけどよ。馬車で行くのが旅の醍醐味だろ?」
「そんなの知らない。早く港観光したい。」
市場があるみたいだから鮮度のいい魚介類が沢山あると思うんだよね。食べ歩きしたいし、料理もしてみたい。
「それにこの馬車は借り物だ。港に着いたら返さないといけないから大人しく諦めろ。」
「ちぇ。だったらこうしてやる。」
馬車本体と馬に魔法付与をかける。すると馬車のスピードがぐんと上がった。
「ちょ、エミル何しやがった! 操作しきれねぇ!!」
「何の事?」
「とぼけんな! 何の魔法かけた?!」
「速度の魔法付与をちょこっとだけ。」
「うおぉぉ! 止まれぇぇ!!」
◇
「酷い目にあった……」
「でも途中でジークも楽しんでたじゃん。」
港までの道のりは石畳で舗装されているのであっと言う間に港に到着した。いやぁ、魔法って素晴らしい。
「じゃ、俺は馬車を返してくるからここで待ってろよ。」
「はいはい。」
ジークがとった宿の部屋に持って来たベットを出して、そこに横になりながら適当に返事を返す。何故なら散策しようにも、お金の管理は師匠がジークに一任しているので1人じゃ何も買えない。全く余計なことをしてくれたもんだ。
宿はというと案の定ジークと同じ部屋になった。まぁ、わざわざ別の部屋をとる理由もないんだけど少しは迷って欲しいところだ。これでも年頃の女の子なんだぞ、俺は。
やっぱり一度聞いてみた方がいいかもしれない。どんな返事が返って来てもどうせジークだし何も問題はないだろう。
しばらくゴロゴロしているとジークが戻ってきたので聞いてみることにした。
「何でって、心配だからに決まっているからだろ。」
「身体を洗ってくれるのも?」
「それはだな……」
「何で言い淀むの? 何か言えないことでもあるの?」
「……ただ勿体無いなと思ってな。」
「何が?」
「やっぱりこの話は無しだ! 飯食べに行くぞ。」
「誤魔化した。」
「そんなこと言ってると飯抜きにするぞ。」
「なんでもありません隊長!」
飯抜きだけは嫌だ。くそう、こいつ俺の弱点を利用しやがって、何時か本音を聞き出してやる。