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72 不自由なパーティー

寝過ごしました。続きです。

今から腹黒紳士淑女をほぼ一人で相手にしないといけないと言うのに、それ以上の問題が新たに発生した。放出魔法厳禁とか聞いてないんだけど!


「どうされましたか?」

「いや……何でもないです」


本当にどうしよう。もしこのまま入ったとしても、誰かの介護無しに満足に動く事出来ないぞ。


「(どうしよう)」

「(俺に任せておけ)」


俺一人ではどうしようもないので、ジークに助けを求めると頼もしい一言が帰ってきた。本当に任せて大丈夫なんだよね? これで入ってすぐに一人にしたら許さないから。


「お手をどうぞ、レディー」

「お、おう」


いきなり隣のジークが紳士もどきになったので驚き、言われるがままに手を重ねる。すると手の甲に一瞬触れるだけのキスを落とし優しく握りながら俺を誘導し中に入っていった。


ジークの一連の流れに身を任せて中に入ったので、慌てて放出魔法を切ったために転けそうになったが、腕を組んでいたので支えてもらい、事無きを得た。入っていきなり転んで注目の的とか笑えない。


「大丈夫か?」

「ん、問題ない」


一歩先が見えない状態は久しぶりで慣れないが幸い蓄積魔法は禁止されてないので身体強化に全力を注ぎ、更に五感を研ぎ澄ます。屋敷内は会話を邪魔しない程度の耳障りのいい音楽が流れており、料理のいい匂いがあちこちから漂ってくると共に楽しそうな談笑の声も聞こえる。思っていたような堅苦しい場所出なくて一安心したけど、俺が勘違いしているだけかもしれない。


「先ずは挨拶からだ。いくぞ」

「おっけ」


最初に俺達がやらなければならないのは主催者への挨拶だ。本来貴族などの上流階級ならば挨拶回りだけで動き回る必要があるが、今の俺はただの留学生でしかない王様だけで許されている。


「本日は一学生に過ぎない私達をご招待頂きありがとうございます。お会いできて幸栄です」

「ありがとうございます。幸栄です」


ジークの言葉に倣ってどうにか取り繕い、カーテシーをする


「我の私欲で呼び出してしまってすまないな。どうしてもこの目で見極めたかったのだ、許せ。しかし、これ程までに可愛らしい童女が来るとは思わなかった」


王様の声を初めて聞いた俺の感想は一つだけだった。この王様何歳だ?


「そうだな、ここでの長話はまた後にして今は夜会を楽しんでくれ」


短いやり取りだったが声を聞いた感じ師匠よりも下か同じぐらいの年だと思う。そうなると三十後半から四十前後って所か。和の国の王様がよく俺に絡んでくる好好爺だったのでちょっとカルチャーショックだ。


「取り敢えず、ひと段落か」

「思ってたより若かった」

「確か今年で御年三十八歳だったな」

「あの爺より王様してた」

「公式の場ではあの人もまともだから」


王様との挨拶は後続がいるためにあっさりと終わり、俺は軽食をつまみながら目立たないようにジークと一緒に壁の一部と化していた。長話はまた後でという不穏な言葉で気分が低下したので、食事を取って少しでも英気を養おうとしていたのだが、俺達に近づいてくる集団の足音がする。


「御機嫌よう、エミルちゃん。そのドレス可愛いねー」

「おい、格好良く行こうとしたのに台無しじゃねえか」

「数日ぶりですね、エミルさん」


どんな紳士淑女達がやって来たのかと思ったらミサキ達で拍子抜けした。この人達は何処であっても変わらないな。


「何しに来たの?」

「んー、ハシュマーの護衛が飽きたから、こっちに来ちゃったー」

「いや、ダメだろ」


来てくれたのは嬉しいんだけど、物凄いくだらない理由で本当にミサキ達が帝の国騎士なのか疑ってしまう。主を優先してあげなよ。


「貴公等はまともに働け」

「御機嫌よう、ミセス・エミル。そのネックレス良く似合っているわ」


今度はファルスとマリまでもこちらにやって来た。


「おい」

「うふふ、冗談よ」


壁際に多彩な面子が集まってしまったために周りから痛いほど視線を感じるが、流石にこの中に紛れ込んでくる勇気はないらしい。もしかして俺達、ミサキ達に避難所扱いされてたりする?


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