69 甘いひと時
少し短いです。
「昨夜はお楽しみでしたね」
「いや、何もしてないから」
ノワールとブランの豪勢な朝食が振る舞われ、俺は朝から機嫌が良かった。でも、今日って何かの記念日だっけ?
「残念です。せっかくお膳立てまでしたと言うのに」
「余計なお世話だ。全く、こっちはおかげで寝不足だ」
結局ジークの考え事は俺が寝た後も終わらずに目覚めたころぐらいになって、ようやくひと段落ついたみたい。長い時間をかけて悩んでいるぐらいだから、転生者が如何にジークとって重要な問題なのかが分かった気がする。きっと俺の知らない前世? で何かあったのだろう。
それにしても同じベッドで寝たのは久しぶりな気がする。昔は師匠にボロボロになるまで鍛えられて、一つの布団に二人で泥のように眠っていた頃が懐かしい。よく涎で汚してジークに呆れられたなぁ。
「先程ノワと確認しましたが、本当に残念です」
「ジークは本番になると、ダメになるタイプだったのかい?」
「そもそもエミルはまだ子供だろ? そういうのはまだ早い」
「は? 子供じゃないし」
俺の方が姉弟子だし、身体は成長してないけど中身は大人だし。少なくともあの子よりは。
「ほら、俺の分も食べろ」
「うわぁい」
このパン甘くて美味しいんだよね。
「先日も忠告しましたが、ジーク様がもたついている間に他の人に取られてしまいますよ? エミル様は大変可愛いらしいですから」
「ジークの物って証を残すのが一番だけど、それが出来ないなら他の事にしてみたら?」
「他の事?」
「んー、例えば噛み跡とかさ」
「噛み跡?」
「あぁー、人種の間では何て言うんだったかな」
「キスマークですね」
さっきから会話している内容が俺とジークに関する事ばっかりなんだけど、ブランとノワールはそんなに俺達の関係が気になるのかな。でもね、証だの噛み跡だの言ってるけど、俺がジークの好きなようにされる訳ないでしょ。
「それは、ちょっとな。エミルの身体に、俺の意思だけで跡を残すような行為はしたくない」
「……そうですか。差し出がましい事をして、申し訳ございません」
「ジークの信条があるなら、お姉ちゃんも何も言わないさ」
何だかジークとブラン達の主従関係って俺が思ってたのと違うかも。
「今日は学校サボるわ。エミルはどうする?」
「ジークがサボるなら、私もサボる」
「それじゃ、俺は一眠りするわ。あ、ついて来なくていいからな」
「おっけ」
特に面白そうな講義はやってないし、多少のずる休み程度で遅れをとる事もないから家でのんびりしようかな。それかブラン達と軽く手合わせするのも悪くないかも。どれぐらい強いのかまだ未知数だからね。
「ジーク様、逃げましたね」
「仕方ないさ。エミルが隣にいたらね」
朝食を中途半端に残していってしまったので、しょうがないからジークが残した分まで俺が食べてやろう。
「んで? エミルはジークの事どう思うさ?」
矛先は俺の方にも向くのね。さっき余計なことしないって言ったくせに。
「もしジークが他の人に取られたらどうするの?」
「奪い返す」
俺から幸せを奪う奴は誰であろうと容赦しない。
「うふふ、豪快でよろしい。お姉ちゃんそういうの大好きさ」
「ジーク様よりエミル様の方が男らしいですね」
誰だって譲れない物は一つや二つぐらいあるだろ。




