68 転生者
続きです
手を引かれて家に帰りついた俺は口直しにノワールお手製のデザートを頬張りながら、ジークの帰りを待っていた。
「ブランも出かけてるなんて珍しい」
「そういう時もあるさ」
この時間帯ならジークはともかくブランは家に居そうなのにな。
「ジークは何時帰ってくるかな? 何か聞いてる?」
「うーん、多分もうすぐ帰って来ると思うさ」
「そう」
あのいけ好かない野郎の言っていたテンセイシャの意味が気になる。もしかしたらそれが俺の過去と何か関係しているかもしれない。
「ジークが恋しくなっちゃった?」
「全然」
「本当に? 恋しくなったから、ジークの事を聞いたんじゃないの?」
家にいないだけで何で俺がジークを恋しくなると思った。
「気になる事が出来たから、それを聞きたくて」
「ジークはちゃんとエミルを大事にしてるさ」
「そんなことは知ってる。聞きたいのは他の事」
「二人が相思相愛で、お姉ちゃん安心したわ」
俺に近寄って来たノワールはそのまま頭を撫でながら、ジークをフォローする言葉をかけてくる。俺ジークに何かされたっけ? 微妙にさっきから会話が嚙み合ってない気がするけど、まぁいいか。ジークが帰って来るまでノワールとのスキンシップを楽しんでおこう。
「それで? 俺に聞きたい事ってなんだ?」
タオルで頭を拭きながらそわそわしているジークと二人で俺の部屋にいた。というのも、冷たい氷菓子を持って涼し気に帰って来たブランとは違い、手ぶらで汗だくになって帰ってきたジークをノワールがお風呂にぶち込み、その間にブランからは良く分からないアドバイスを貰ってあれよあれよとしている内に二人っきりにされてしまった。
皆に聞きたかったんだけどな……
「今日の夕食の時に、気になる事を言われた」
「そっちか……何を言われたんだ?」
「テンセイシャって、知ってる?」
「……それを本当にミハエルの奴が言っていたのか?」
「うん」
俺がそう言うとジークはベッドに座り込みあれこれと考え始めた。そわそわしてると思ったら気落ちして、最後は頭を抱えているジークは少し子供っぽい。
「おい、笑ってる場合じゃないぞ」
「そうなの?」
「あぁ、テンセイシャってのは……」
「のは?」
言いよどむ程に重大な案件なのか。
「そうだな、エミルだけじゃ不公平だよな」
「何の話し?」
「俺に関する秘密だ」
「それが関係してるの?」
「あぁ」
それからジークが話し始めた内容はにわかには信じがたいものだった。他の世界での記憶を持って神様を名乗る人にこの世界に転生させて貰ったって、ありえるのか?
「嘘だと思うか?」
「ジークが嘘吐きだとは思わない、けど」
「信じられない事かも知れないが、俺だって思ってもみなかった。もう一度人生をやり直しできるなんてな。でも、不思議なのはお互い様だろ?」
「そう、だね」
そう言われると俺も大概意味の分からない不思議ちゃんだったな。人の事言えないわ。
「それにな、最初はエミルも俺と同じ転生者だと思っていた」
「私が?」
「エミルは普通の女の子には程遠いからな」
「それ、あいつにも似たようなの言われた」
俺が普通じゃないから転生者だと思われたのか。
「話しを戻すと、ミハエルが転生者を知っているのが問題なんだ」
「ジークと同じ仲間なのに?」
「だからこそ問題だ。この前にエミルを勧誘してきた道化の救済者って奴も、転生者の可能性が高い」
俺とあの子の事を知っていた奴だな。
「ミハエルが道化の救済者?」
「まだ確定ではないが、気を付けた方がいいだろう。転生者は俺も含めて、全員ユニーク魔法を持っているはずだからな。何をしてくるか分からん」
「それは厄介」
新種の魔物を相手するよりまだマシだけど、人間の方が狡猾だからな。
「考え事が増えたな」
そう苦笑いしながらまた考え事に没頭してしまった。俺も何か出来ないかな?
「私も何か手伝う」
「だったら俺の傍から離れるな」
答えてくれたのは普段と変わらない事だった。だったらそれは何時もよりもってことなのかな。これは本当にランキング一位が見えてきた。
「それだけ?」
「あぁ」
「分かった、なら今日は一緒にねる」
「あぁ……え?」
この後ジークが眠れぬ夜を過ごすことになるのは言うまでもなかった。




