67 第三者
続きです。
俺はジークが奢られてこいと許可を得たので、誘ってきた一人の男と夕飯を食べにきている。向かった場所は普段ジークと行くような大衆向けの食事処では無く、格式のある高級なレストランであったのでマナーとか面倒くさいと少し気落ちしたが、相手もそれを分かっていたのか二人っきりの個室を選んでくれたので他人の視線を気にせずに食べる事が出来ている。更には俺が満足するまで好きなだけ食べいいらしい、こいつ最高かよ。
そんな太っ腹な今日知り合ったばかりの男が時折話しかけてくるのを無視するわけにもいかず、適当に会話を返していた。
「君とこうして話すのは初めてだね、エミル」
「そうだね」
「入学試験の時から、君にずっと興味があったんだ」
「んぐ、入学試験?」
あの時はファルスとヴェランテ先生にいちゃもんを付けてきた人しか接点は無かったはず。
「盲目の君が覚えていないのも仕方ないさ、僕が一方的に知っていただけの事だから」
ご飯を無料で食べ放題で幸せだった気持ちがその言葉を聞いて一気に冷めていく。なるほど、よく俺の事を知っているみたいだ。気持ち悪い程に。
「へぇ、それで私の何に興味を持ったの?」
この学園に来てから俺は誰にも自分が盲目であると言っていない。けれど、俺が両目を閉じて生活しているのは周りも知っているだろう。そんな俺の事を周りの人は目が不自由なのか、それとも魔眼を持っているが故に瞳を開けないのかと推測するはずだ。
なのにこいつは入学試験であっただけの俺の事を盲目だと知っていた。それは即ち俺の過去の事を把握しているということになる。何が目的?
「君の魔法だよ。君の年齢でどうやったらあそこまで至れたのか、ぜひ聞かせて欲しいな」
そんな事が聞きたいのか?
「優秀な師匠がいたおかげ」
「和の国にあんな魔法を師事出来る様な人物に思い当たりが無いんだけど、良かったら僕に教えてくれないかい?」
「……」
「それにね、もしいたとしても盲目である君がそれを僅か二年で会得したなんて普通じゃない」
あぁ、今すぐこの場から逃げ出したい。俺はこういう舌戦? 心理戦?は嫌いなんだ。
「だったらなに? 何か問題ある?」
「いや何も問題はないさ、だけど一つ答えてくれ。君はーーかい?」
「え?」
まただ、俺にはその言葉の意味が分からない。こいつは今何を聞いている?
「何を言っているか分からない」
俺が素直に分かんないと答えると数分間考えた後にもう一度聞いてきた。
「君は転生者かい?」
「テンセイシャ?」
今度はちゃんと発音を聞き取る事が出来たが、その意味は依然として分からなかった。でもこの発音はイインチョウと同じだ。
「あれ? ちょっと予想外の反応だ。可能性は高いと思ったのにな」
「その、テンセイシャって何?」
「それは言えないな」
「ずるい」
「まぁ、違うなら違うでいいか」
「だから、何の話し?」
その後もずっと話をはぐらかされて食事は終了し解散した。何だか一気に俺の扱いが雑になった気もしないが、もうこいつとは二度とご飯を一緒に行かない。ご飯が不味くなるから。
せっかくの美味しいご飯が台無しになったなぁ。家に帰る前にどこかで食べ直そうと考えたが財布がスカスカなのを思い出して、やるせない気持ちになった。ちくしょうめ。
「お嬢さん、私と一緒にご飯でも行きませんか? なんちゃって」
トボトボと帰路についていたら家にいるはずのノワールが俺の前に現れた。
「なんでいるの?」
「んー、お姉ちゃんはエミルを心配したのさ」
「心配?」
「そうだよ。私が心配したらいけない?」
「ううん、問題ない」
「じゃ、一緒に帰ろう」
そして差し出された手を繋いで帰る。ジークみたいにごつごつした手じゃないけど、これはこれでなんだかほっとする。
明日は元気があれば更新します。




