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66 ジークの思惑

ジーク視点です。

エミルをフレンドリーな口調で誘っている美男三人には覚えがある。確かこいつらは俺が安易に手を出す事ができない上流階級の奴らだ。そんな奴らが何でいきなりエミルを口説くような真似をしているのかには、いくつか思い当たるものがある。


今この国の内部では新種の魔物を討伐を単独で討伐したエミルを、国騎士に引き込もうとする連中が存在している。シュヴァルツァーの名を持つエミルだが後見人のバルドさんの実子でも養子でもないので、上手く手懐ける事が出来れば国にとって有益だと判断されての事だろう。


この情報はレオンが魔物を渡す条件としての対価で得る事の出来たものだ。そのおかげで俺は魔王の厄災についての情報を、エミルは魔眼についての情報を箝口令の対価として貰うことができた。国からの対応にしては随分と俺達に甘い感じがしたが、襲撃事件の犯人が分からない以上、力を持った不穏分子を新たに作るよりかましだと思ったらしい。


もう一つは道化の救済者の組織に勧誘するためのハニートラップの可能性がある。あの仮面をつけた男は次は手荒い歓迎になると言っていた。それがどんな手段で来るのか不明な以上エミルの警戒は必要だ。


だが、今も口ではエミルを誘いながら余計な口を開くなよと視線で俺を牽制してくる三人をどうしたものか。もしエミルが今の誘いを断ったとしても、あの手この手でエミルをまた誘惑してくる可能性が大きい。今は優しく丁寧だが何度も断っていると相手側の面子を潰しかねない上に、そうなった場合それを面白く思わない人物が必ず現れるだろう。


一番最悪なのは強引な手段でエミルが反撃した場合だ。相手側の思惑が一致しているために、どちらであったとしても敵対するのが免れない。国と謎の連中を相手するのは今の俺達だけじゃ厳しすぎる。


「ジーク、どうすればいい?」


あれこれと悩んでいたらエミルから意見を求められる。普段のエミルなら俺の意見など聞かずに断っているはずだが、相手が好意全開で近寄っているために珍しく悩んでいるみたいだ。悪意に関しては人一倍敏感に反応するエミルだが、自身に向けられる好意にはどうも弱い。これが思惑の見え透いた好意ならエミルは容赦なく切り捨てるのだが、相手も腹芸が達者なようだ。


「どうするか……」


理想は誰も敵を作らずに穏便に相手から手を引いてもらうこと。ならば俺はエミルの可能性を信じるしかない。


「思う存分奢ってもらえ」

「いいの?」

「あぁ、問題無い」


エミルの事をある程度調べているみたいだが、こいつが如何に非常識な存在かを改めて知るが良い。



「それでエミル様を置いて帰ってこられたのですか?」


家に帰った途端にブランとノワールに何故か俺は正座させられていた。金の瞳と黒曜石の瞳でじっと見つめられると、尋問されている様な感覚に陥る。そう思うのはこの二人が俺にとって姉のような人物であるからだ。


俺と同じ銀髪を肩で切り揃えた金の瞳を持つ狼人のブラン、黒髪ポニーテールに黒曜石の瞳を持つ猫人のノワール。俺が武の国で戦ったことのある二人で、命を救ってから両親がおらずまだ子供で無茶ばっかりする俺を、何かと心配して色々な世話を焼いてくれた人物だ。


エミルには主従関係とか言って誤魔化したが、本当は俺の事がまだ心配で武の国からやって来たなんて言えなかった。


「ジークがエミルを信頼しているのは分かるけどさ。エミルはどうか分からないよ?」

「どうとは?」

「心変わりする可能性は考えなかったの?」


エミルが心変わりする? そんなことはないだろ。


「人の心は変わるものです。特にエミル様はまだ子供なので、ちょっとしたきっかけだけで変わってしまうかも知れませんよ」

「俺は二年前から近くで見た来たが、あいつは大人顔負けだぞ?」

「だったら、エミルが甘えん坊なの知ってた?」

「はっ? エミルが?」


ノワールは何を言っているんだ? エミルが俺に甘えてきたことなんて殆どないぞ。


「私達がエミルと出会ってからそんなに時間が経って無いのに、ジークの知らない事を知ってるさ」

「……」

「様子でも確認しにいきますか?」

「場所聞いてない……」

「はぁ、全く。仕方ないから、お姉ちゃん達に任せなさい」


俺もまだ未熟なようだ。


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