7 集大成の結果。
プロローグは終わり、学園編スタートです。
あれから早くも2年の時が過ぎた。俺は周りの皆んなの技術を習得し、1人で生活出来るまでに成長していた。バルドさんからは戦闘と武器の使い方を、ハザックさんからは医学の知識と回復魔法を、カナンさんには言葉遣いとマナーを、スズさんからは放出型の魔法を教えて貰った。ユキさんはその、あれだ、反面教師的な何かを教えて貰った?
他にも花の育て方や料理の知識、魔物の種類や倒し方などなど沢山の事を学ばせて貰い、スポンジの如くそれらを吸収していった。
だが、悲しい事に身長と胸は全く成長しなかった。2年で身長が2センチしか伸びてないので14歳にして140センチちょっとしかない。まぁ、小さくても困らないし? 気にしない気にしない。 はぁ。
「なんだエミル、ため息なんてついて。どうした?」
「ただの悩み事。」
「へー、お前が悩み事とはね。なんだったら聞いてやるよ?」
「乙女の秘密だからいい。」
「は? お前が乙女とかぬかせ。」
「なにやる気?ジーク。」
「今度こそ勝つ。」
ここ2年で色々あった。まず俺の名前はエミルと名付け貰った。これは助け出してくれたバルドさんに付けてもらった名前だ。そして、隣で俺に喧嘩を売っているのがジーク。彼はバルドさんに憧れて遥々、武の国からやって来た同い年の男の子だ。
「お前ら城の中で騒ぐな。城が壊れる。」
「はい! すみません。」
「ほーい。」
「兄妹仲良くしろよ。」
「「誰が兄妹だ!!」」
「だから五月蝿いっての。」
そういってバルドさんは眠たそうに食堂に向かっていった。夜勤明けだったのかな?
「どうして俺までエミルについていく羽目になったんだ……」
「気にしない気にしない。」
「そもそもお前が……いや、お前のせいじゃないな。」
「私悪くないもーん。」
そもそもの事の発端は数日前の出来事だった。
◇
「第何回か忘れたけど、エミルちゃん教育会議を開催します。」
とある部屋にはエミルを指導している師匠達が集まっていた。
「今回の議題はエミルちゃんに教える事がほとんど無い事についてです。寧ろ最近ではエミルちゃんから教えて貰ってます。」
「だ、な。俺も教える事は全部教えてしまった。」
「僅か2年で教える事がほとんど無くなるとは思わなかったね。」
「エミルちゃんは教えた事直ぐに覚えちゃうから。私も嬉しくてつい色々と教えちゃった。」
エミルはあらゆる技術、知識を吸収し魔法、戦闘の才能を開花させていた。それに教える人達も和の国で最強の魔剣士に、死神殺しの二つ名を持つ最高位医師、国騎士1番隊の魔導師という、トップレベルの教育を受けていた事も関係している。
「エミルさんはもう巣立ちの時では無いかしら?」
「そうかもねー。人形ちゃんとっても賢くなったし何処に行っても大丈夫じゃない?」
もう何処に行っても大丈夫なぐらいにエミルは強くなっていた。
「正直言ってやり過ぎた感は否めないな。既に俺以上の魔剣士になってるぞ、エミルは。」
「おまけに蓄積、放出型の魔法も扱えて、その上特殊な回復魔法まで出来るからね。」
「もうエミルちゃんって世界でも有数な猛者になってるよね?」
「それなのに当の本人は自覚無しですから困り者ですわ。」
「この前なにかの実験なのか素手で魔物を屠ってましたよ。誰ですかあんな非常識な方法教えた人は?」
「どうせユキの阿保でしょ。」
「そういや、誰が常識を教えてるんだ?」
「「「「…………」」」」
「ん?」
「まさか!? 誰も教えてないのか?!」
「あはは、他の人が教えると思ってつい。」
「私も。」
「これは少々、いやかなりマズイ。明日エミルに聞いてみるか。」
「頼んだよバルド。」
そして次の日。バルドが色々と頑張って聞いた結果、エミルは非常識を常識と間違って認識してしまっていた。和の国トップクラスの人達による行き違いにより、とんでもない非常識の塊が誕生してしまったのだった。
◇
「どうして俺がエミルのお守りなんだよ。エミルの方が俺より強いじゃんか。」
「ジークは弱い。」
「うるせぇ! お前がおかしいんだよ!」
「私は普通。」
「はぁ、恨むぜ師匠。」
「それにしても学校に行けるとは思って無かった。」
「あぁ、何でも1番良い学校らしいぞ。よくそんな所のコネ持ってたよな。」
「師匠は有名人だから。」
俺はバルドさん、師匠の勧めで学校に通う事になった。何でも俺達が教える事は何もない、だから今度は学校に行って友達を作ってこいだってさ。しかも、卒業したらそこからは自由にして良いとのこと。
自由にしていいって事は俺は一人前になったって証だな。これでやっと魔眼を取り戻す為の旅が出来る。
でも、3年間は学校に拘束されてしまうのでその間に魔眼について情報を集めておこう。
師匠の勧める学校は様々な情報が集う法の国にあるみたい。何から何まで感謝してもし尽くさない。この恩はいつか必ず返す。
「それで持って行く荷物の準備は整ったのか? 」
「うん。」
「そうか。じゃあ後でチェックするぞ。」
「変態。」
「言ってろ人形。」
ジークは何かとお節介を焼いてくる。それも俺のプライバシーを無視した状態でだ。お風呂にも一緒に入ってきて身体中の隅々まで洗われる。流石にデリケートゾーンは洗わせ無いけど。ジークは特に髪の毛を念入りに洗ってくれるので、おかげでサラサラだ。
俺を女として見てないのか? それとも俺の目が見えない事を良い事に裸体を見て楽しんでいるのかなど色々考えたけど、邪な感情などは一切感じなかった。
まぁ、変な事をした瞬間にその股間にぶら下げてるイチモツとはおさらばしてもらおう。慈悲は無い。
多分、ジークにとって俺は手のかかる妹みたいな立ち位置なんだろう。
「ほら、朝食食ったらさっさと部屋に行くぞ。明日にはここを出発するんだから。」
「私は鍛錬しとくから、後はジーク1人で準備して。私が居ても役に立たないから。」
「あー、分かったよ。なら部屋の鍵貸してくれ。」
「鍵かけてないから勝手に入っていいよ。」
「不用心だな。部屋の物盗まれても知らねえぞ。」
「その辺は大丈夫。部屋に誰か入ったらすぐに分かる。」
「……まさか部屋に結界張ってるのか?」
「もち。」
「才能の無駄遣いだな。」
そんな他愛もない会話をしながら出発までの時間を過ごして行くのだった。