64 居候
少し短めです。
季節は春から夏に移り変わり始め、短かった休暇も終わり今日からまた学園生活が始まる。ヴァールテクスに来てからまだ半年も経っていないが、大分この生活に慣れたと思う。
「おはようございます、エミル様。今日から制服も衣替えですね」
「……」
「では、失礼して」
「……」
「はぁ、いつ見ても綺麗な肌ですね。すべすべでモチモチ、食べちゃいたい」
どうして俺はお世話されてるんだろう。
そもそもの事の始まりはジークにある。何でもドアを破壊して入ってきた二人の亜人は、武の国にいた時の知り合いだそうだ。
二人の年齢は俺より6歳上の20歳で、違法賭け試合でジークと戦った際に本来なら殺される所を助けて貰って以来主従関係を結んだとか何とか。詳しく聞こうとしても黒歴史だからとジークはお茶を濁すだけで、取り合ってくれなかった。
一体何をしたのかが非常に気になる所だが、知られたくないなら深くは聞かない。隠すぐらいだからどうせ碌なことじゃないだろう。
その主従関係云々はジークが武の国から出る前に解消したらしいのだが、法の国まで追いかけて来て今も甲斐甲斐しく俺の世話をしている獣人型の彼女を見れば明らかだ。ちっとも解消されてないじゃないか。
そもそも亜人の中でも獣人型はそう言うのを一度決めてしまったら死ぬまで変わらない。彼女達の行動も本能的な部分からきているので、いくらジークが何か言った所で馬の耳に念仏だ。
「はい、出来ました」
「ありがとう」
「お気になさらず」
こうして律儀に追いかけて来た彼女達を無下に出来ず、一緒に住む事になり今に至る。
「おはようさん、エミル様」
「おはよう」
リビングに降りるともう一人の居候に出くわす。
「ジーク様は?」
「朝の鍛錬をしてくるって、地下に行ったよ」
「そうですか」
「そろそろ朝食の支度が終わるからさ、ブランがジークを呼びに行ってくれない?」
「分かりました。では、ノワはエミル様をお願いします」
「はいよー」
朝から俺の世話をしてくれていたのが狼人のブラン、そして朝食の準備をしているのが猫人のノワールだ。
「今更なんだけど、何で私もジークと一緒の扱いなの? 何か言われた?」
二人共何も言わずに最初から俺の世話をしてくれるけど、主人はジークだろうに。
「一応、忠告はされたさ」
「そう」
「あぁ、勘違いしないで。別に私達は命令だから従っている訳じゃないのよ」
「そうなの?」
てっきりジークが色々と命令を出してるからなのかと思っていたら、ノワールは慌てた様子で俺を抱きしめにくる。ブランもそうだけど二人共スキンシップが激しい。でも何だかんだ嫌な気分にならない。どうしてだろう?
「だってエミルはジークの番でしょ? なら私達がエミルに使えるのも普通の事さ」
「えっ、番?」
ジークって俺の事を番って説明したの!?
「えぇと番ってのは」
「意味は知ってる、ジークが言ったの?」
「明確には言われてないさ。でも、二人を見てたら丸分かりだよ。お姉さんちょっと嬉しくなっちゃった」
「嬉しい?」
「うん。ジークの小さい時を知ってるからね、やっと落ち着いたって感じがした。それに可愛い奥さんと一緒に妹も出来たって最高じゃん」
俺が奥さんで妹なのか。ふむ、悪くない、のか?