61 動き出した世界
続きです
「ユミルちゃん! 私のこと分かるよね?!」
「ちょっと身体を調べてもいいですか?」
「俺達は敵じゃないからな? 間違っても攻撃しないでくれよ?」
意味の分からない事を言いながら、俺の心配をしてくるミサキ達に首を傾げる。むしろ心配なのはミサキ達の方なんだけど、もしかして頭でも打った?
「あぁー、その、なんだ。お前らが思っているほど深刻な状況じゃないから、一旦エミルを放してやれ。困惑してるから」
「でも……」
「そこら辺はちゃんと後でエミルが説明してくれる。だから、今は少し落ち着け」
「……分かったわ」
ジークが間に入った事でミサキ達は落ち着いてくれたが、ちゃっかり俺が逃げない様に釘を刺すジークは色んな意味で流石だと思った。
ミサキ達が冷静になった所で今度は騎士達の質問攻めがやってきた。今の魔法は? あれはユニーク魔法か? 等、複数の人が興奮しているのか一気に質問してくる。法の国とあって魔法の事になると食いつきが尋常じゃない。
俺はそれに若干引きつつ、頼りになるジークとミサキ達をスケープゴートにしてその場から逃げる。そういうのはヴィランテ先生だけで間に合ってるよ。今は夕飯をどうするかを考える方が俺にとって重要だ。
「ちょっといいかな」
他とは少し違う1人の騎士が周りに声が届かない様に、ご丁寧に結界を張ってから質問をしてくる。けど、そんなことをしても俺の答えは変わらない。
「だめ」
今はまともに会話するつもりはない。どうせ後で嫌というほど付き合わされるんだから。
「君は本当に同一人物なのかい?」
「……」
「全く、君がどんな人間か益々分からなくなったよ。でも一つだけ分かった事がある、何だかわかるかい?」
何だか馴れ馴れしいな、こいつ。
「それは、エミルちゃんと敵対したらいけないってことさ。何せ我々一個小隊を蹴散らした魔物を、三体もいとも簡単に倒した力を持っている。たとえそれが十四歳の子供であっても、そんな人間に手を出したらどんなしっぺ返しがくるか想像に容易い。それに君に手を出した時点で、あの四人も敵に回るだろう。ただでさえ襲撃事件の影すら踏めていないのに、新たな敵を作るのは余りにも愚かだ」
「そんなこと私に言ってもいいの?」
明らかに軍事関係者しか知らない情報を漏らした事に、つい返事をしてしまった。
「君達には我々の味方であってほしいからね」
「私がもし敵だったらどうするの?」
「その時は一個大隊を連れてくるよ」
「大袈裟」
「いいや、適正な評価だと僕は思うよ」
それが適正なら俺は龍型の魔物と同等の扱いなのか。少しは手の内を見せたとは言え、それだけでこの評価を貰うのは少し変だな。特に目立つ何かをした覚えもないし。
「これから長い付き合いになると思うから、改めてよろしく。エミルちゃん」
最後にそれだけ言って騎士は到着した増援のもとに向かってしまった。よろしくと言ったくせに結局自分の名前を名乗らなかったなあの野郎。
「アルベルトさんと何話していたんだ?」
「あ!」
増援が来たおかけで質問攻めから解放されたジークの一言で思い出した。そうか、何だか聞き覚えのある声だと思ったら今の騎士はアルベルトか。
「すっきりした」
「ん?」
「何でもない」
「そうか。なら、俺達も帰るぞ」
「うん」
新種の魔物が出現したことにより俺達学生の任務は終わりを迎えた。しかし、この二回目の襲撃事件から世界は少しずつだが確実に変化していくことになる。




