58 閃光と獣
続きです。
人類が使う魔法を紐解くと必ず行き着く事柄がある。何故なら魔法とはそもそもそれの模倣から始まったのだから。
魔法とは瘴気を持たない人類が魔物という強大な種と対抗するために編み出し、長い年月と共に同じく進化してきた。そして殺傷能力、利便性、効率的にと様々なカスタマイズがされて、現在の魔法が出来上がったのだ。
でもそれの起源は魔物が自由自在に扱う瘴気を魔力で真似した事が発端であるのを殆どの人類は知らない。
もし人類が一から基礎を築くまでの時間があれば、とっくに魔物に滅ぼされていたことだろう。けれども、そうはならなかった。魔物と人類が上手く均衡が取れるように調整されているのだ。
魔物が千差万別に瘴気を扱うと同じように、人類もまた生まれ持った特技を備えていた。所謂ユニーク魔法というものである。
これのおかげで人類が全滅することは無く現在があるのだが、多くの人類があたかも魔法が自分達専用の物だと勘違いしてしまった。
そのために魔物が人類の使う魔法と同じ様な現象を起こした時、茫然自失とする他になかった。偶々それが使える魔物に出会ってしまっただけなのに。
◇
「あっぶね」
思考を断ち切るかのように新たに取り出した大剣を振り下ろしてくるのを、レオンは風を切る音が聞こえるぐらいの最小限の動きで躱す。
そして標的を逃した大剣が引き戻される前に刀身の腹を、籠手を装備した拳で殴り飛ばす。
「またくる!」
「分かってる!!」
殴り飛ばした方じゃない手に握られているそれの横薙ぎを屈んで回避する。その姿勢から狙える魔物の脚を蹴り砕く体勢に入ったと同時に、ミサキ達の援護が魔物の上半身に命中する。
「おらぁ!!」
足甲を装備し充分に強化された蹴りを当てるが、ゴム質な筋肉と鋼鉄の骨によって構成されているかのような脚は、外皮を僅かに削るだけで逆にレオンの脚の方がダメージが大きかった。
「くっそかてぇ」
それから当たれば必殺であろう二本の大剣を掻い潜り、弾き飛ばし、殴打を続けるも、人間より遥かに丈夫な魔物にとって致命の一撃には至らない。
これでは埒が明かないとインファイトを一旦止めて距離を離す。その際に上半身に強烈な回し蹴りをかましてから。しかし、魔物も負けず劣らず両手の大剣を投げつけてくる。
「こなくそ!」
無理やり身体を捻ってそれを回避し、魔物が追ってこないのを確認する。追ってこないのを確認した途端に、思い出したかのように一気に汗が全身から吹き出す。
「はぁ、はぁ。すぅー」
心臓が痛いほどに鼓動するのを深呼吸をして落ち着かせ、それから改めて魔物を様子を確認する。
その姿は幾度となく撃ち込まれた魔法とレオンの殴打によって所々表皮が剝がれ、筋肉が剝き出しになり血を垂らしていた。
けれど、レオンと同じように深く呼吸してはいるが、共に脈動する身体は疲れを知らないかのように滾っており、こちらを見つめる二つの瞳はこれからが本番だと言っているようだった。
「ミサキ、頼むわ」
瘴気は削れた、確実にダメージは与えている、けれどこのままちまちま攻撃していても魔物が力尽きる光景が浮かばない。見るからにボロボロなのに、時間が経つに連れて闘志はどんどん増してくように思える。
ならば致命傷を与える攻撃をすればいいだけの話しだ。
「勝算はあるの?」
レオンの意図を汲み取ったミサキが尋ねる。
「半々って所だ」
ミサキもマキも放出魔法と時折飛来する大剣から周りを防ぐために、多くの魔力を消費しているからか顔色が悪いが、更に表情が険しくなる。
「ふっ、そんな顔するなよ」
「だって……」
「イインチョウ、もしもの時は任せた」
「……尻拭いは嫌ですよ」
まともに会話出来ているのはもはやこの3人しかいなかった。他の人達は緊張の糸が切れた瞬間に気を失いそうな酷い顔をしている。
「ふぅ……やるか。『第三歯車』発動」
透明の三つの歯車がレオンの身体に吸い込まれる。そしてドクン、ドクンと胸が早鐘を打つ度に身体からどんどん魔力が溢れて氾濫していく。
「戦闘狂騒曲『闘神』!!」
「閃光と共に散れ」
寒い割に雪をまだ見てない




