57 シンプル
続きです。
「奴に近づくな!! 遠距離で削りきるぞ!!」
一撃によって殺された国騎士を見て一瞬だけ全員の時が止まったが、即座にリーダーらしき人物が怒号に似た命令を出す。
その声に反応した前衛にいた者が一斉に魔物から距離を開けようとするも、それを簡単に許してくれるほど甘くは無かった。
次に狙われたのは殺された国騎士を間近で見ていた者であった。命令に僅かに反応が遅れた彼は迫りくる魔物に本能で思わず手が出そうになるのを理性で抑え、無謀にも戦おうとはせずに仲間を信じ距離を離すために全力で後ろに跳躍をする。
彼の期待に応えるように絶妙なタイミングで、離脱を阻害しないギリギリの威力の魔法が魔物の顔に殺到する。けれど、目くらましの効果も無く跳躍で浮いた足を片手でつかまれ、そのまま地面に叩きつけられた。
今までの経験が生きたのか叩きつけられた瞬間に防御をしたおかげで致命傷にはならなかったが、続けざまに振るわれる大剣を避ける事は出来ずに頭蓋を砕かれ絶命した。
彼が殺される時も放出魔法は絶え間なく撃ち続けられているがダメージを負っている様子は無く、そのままこちらに悠然と歩いてくる。
「くそ、瘴気の量が尋常じゃないぞ!」
瘴気とは言わば魔物に搭載されている天然の防御壁だ。身に纏えば盾に、形を成せば矛に、使い方は千差万別。この魔物の場合は瘴気を魔法から守る盾として使用している。
当初の予定は最初に全員で高威力の魔法を放ち魔物の瘴気を削った後、前衛に蓄積魔法の得意な者で足止めし、その隙に後衛が放出魔法にて袋叩きにすると言う単純な物だった。
それが魔法に精通している法の国だからこそ出来る、一番有効的な対魔物戦である。
今回の任務はエミルが討伐した新種の魔物を解析した上での人数だった。更に複数体の新種が現れても上手く立ち回れるようにわざわざ討魔者までも雇ったのだが、たった一体の新種にまるで歯が立っていない。
「何だよあのバケモンは!? 聞いてねぇぞ!!」
「Bランクを優に超えているじゃないか!!」
「とんだ貧乏くじだぜ」
この任務は国民のため、現状では学生を守るために戦う国騎士とは違い、自分の命を第一を考える討魔者達は経験則から勝手に撤退しようとしていた。確実に瘴気は削れているが魔物を討伐する前に、自分達の方が先に殺されると悟ったのだ。
「っ馬鹿野郎! 弾幕を止めるな!!」
前衛にいた者含め全員で放出魔法を放っていたおかげで歩行の阻害程度になっていたが、身勝手な討魔者が手を止めた事によってそれが崩壊した。
攻撃の手が緩んだ隙に魔物は一気に距離を詰める。
「俺が相手するから2人共頼むぞ!!」
「オッケ! 任せてー」
「了解です!」
一緒に遠距離で魔法を放ちながら瘴気を削っていたレオン達は、抜けた穴を埋めるために打って出る。
「よせ! 死ぬ気か!?」
「援護お願いします」
射線上魔物に自ら突っ込みにいくレオンに命令を出していたリーダーが驚くも、目の前の事に全集中力を傾けているレオンはぶっきらぼうに答える。
「第一歯車発動」
レオンのユニーク魔法『加速する歯車』は発動する歯車の種類によって能力が変化する魔法だ。その中の第一歯車は蓄積魔法の能力を向上させるもので、ミサキのユニーク魔法『狂詩曲』に似た能力だ。
そして最大の特徴は時間経過によって能力が向上し続ける事だ。けれど、それに比例して消費魔力も増大していく。つまり短期決戦に特化したユニーク魔法なのである。
「うおっ」
レオンに向かって突如片手に持っていた大剣を勢い良く投げつけてきたのを、上体を反らして回避する。
自分から得物を手放すとは思っていなかったがレオンは既の所で間に合った。だが、後ろにいた者たちは高速で飛来してきたそれを完璧に回避する事がかなわず、身体の一部を犠牲にしていた。
「まじかよ」
得物を無くした魔物に視線を向けるとよく見たことある魔法を使っていた。
「アイテムボックス……」
同じくそれを見てしまった周りから思わず掠れた声が漏れる。
魔力を扱う者が必ず覚えるであろう便利な魔法。それは人類だけが使えるものではないのだ。
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