6 リハビリ開始。
ブックマーク、評価等ありがとうございます。続きです。
「人形ちゃんには魔力が見えるなら話は早い。先ずは私がお手本を見せるから、魔力の流れをよく見ておいてくれ。」
「分かった。」
「では、ゆっくりとやっていくよ。」
ハザックさんの火の玉から手足に向けて線のような物が伸びて行くのが分かる。なるほど、食堂や移動中に見た人型タイプは全員身体強化の魔法を使っていたのか。
「身体強化は第6級に分類されて、魔法を扱う人が最初に覚える魔法なんだ。何せ魔力の感覚を掴めば簡単に出来るものだからね。」
「理論的に説明すると、体内にある魔力を使って身体の筋肉、骨、表皮等を強化する事を身体強化と言う。魔法は具体的なイメージがあると発動までのタイムラグが少なく、効率も良くなるんだ。だから覚えておくといいよ。」
ハザックさんの身体強化は他の人型に比べて全身にびっしりと細い線が伸びている。これがイメージの有無の違いかな?
「私の場合は医者という職に就いている分、他の人に比べて身体の構造を良く知っているから、同じ身体強化でも違いが出るんだ。」
ほへー。まるで毛細血管見たい。
「それじゃ、魔力を感じ取る事から始めてみよう。」
「はーい。」
「これもイメージが大事だよ。」
目に見えている分直ぐに感じ取れるだろうと思っていたけど、中々魔力を感じ取る事が出来ないでいた。俺が1人でうんうん唸っている間、ハザックさんは書類仕事を始めていた。
「やっぱり分かんない。」
「ふむ、もしかしたら人形ちゃんの言う火の玉が見えているせいで、余計に分からなくなっているんじゃ無いかい?」
「どゆうこと?」
「人形ちゃんが今見えてる火の玉は、おそらく生命活動に消費した魔力の残滓だと思うんだ。分かりやすく言うと、火の玉を魔力と勘違いしないでって事。魔力は火を起こすための燃料であって、火その物では無いよ。」
そう言う事か! 俺の魔力は多いはずなのに火の玉が小さいのはそう言う理屈だったのか。よし、なら今度は火の玉じゃなくて燃料を探してみよう。
そうやって身体の中を探っていると、広い湖の様な場所を見つけた。これが俺の魔力なのかな? と覗いていると底の見えない湖を見て少し怖くなった。底が見えないってどれだけ魔力あるの?
とりあえず、そこから水を少し汲み上げて先ほどハザックさんがやっていたのを参考に、身体に供給してみる。けれども中々、身体中には行き届いてはくれなかった。でもこれで分かったぞ! あの底の見えない湖が俺の魔力だ。忘れない内に感覚を掴んでおこう。
「おや? もうこんな時間だ。そろそろ夕食の時間だから、今日はここまでにしておこう。どうだい? 何か掴めたかい?」
「魔力分かった。」
「おぉ! それは凄いね。最低でも1週間はかかると思って様子をみていたんだけど、これは思わぬ誤算だね。お祝いに夕食は豪華にして貰おうか。」
「やった!」
お昼ご飯も美味しかったからこれは期待できるぞ。でも食べられる物は限られちゃうのが少し残念。早く肉が食べたい! ふふん♪ 夕食は何かなぁ?
そうして上機嫌のまま、昼と同様にハザックさんに抱っこされて食堂に向かった。
「人形ちゃんご機嫌だねぇ、何か良い事でもあったんですか?」
「昼の時は無表情だったわよね。何をしたの?」
食堂で居合わせたスズさんとカナンさんが俺が上機嫌な理由をハザックさんに聞いていた。ちなみにユキさんは夜間任務で仕事中だそうだ。
「人形ちゃんのリハビリをしていただけだよ。」
「リハビリって大抵きついですよね? それなのに上機嫌って人形ちゃん、まさかそう言う性癖?」
「酷い誤解。」
「じゃ、どうしてそんなにニコニコしてるの? お姉さんに教えて。」
「魔力分かった。」
「ぇ? 魔力が分かったってどう言う事?」
「リハビリとして身体強化の魔法を覚えて貰おうと思って、まずは魔力を感じ取る練習をして貰っていたんだ。僅か半日で感覚を掴んだみたいだから、夕食でお祝いしようと提案したらこの通りだよ。」
「ちょ、ちょっと待って下さい。リハビリで身体強化?! しかも半日で魔力が分かったって、冗談はやめて下さいよ。」
何かおかしな事でもあるのかな?
「仮にそれが本当の事だとしても、それはリハビリでは無く軍事訓練ですわ。身体強化も魔力感知の練習も幼子に覚えさせるものでは無いわ。ハザック様は何をお考えで?」
カナンさんが何でか怒ってる? それに身体強化と魔力感知って軍事訓練だったの?!
「軍事訓練である身体強化と魔力感知を教えたのは私の個人としての判断だ。人形ちゃんには生きて欲しい、だから少しでも生存確率を上げるための方法を教えた。戦闘訓練はバルドに教えて貰おうと思っている。」
「なっ! どうしてこの子にそこまでするんですか?! やっとあの地獄から抜け出せたんですよ? これ以上彼女に何をさせる気ですか!!」
スズさんまでヒートアップしてきた。俺の事を思って怒ってくれて何だか嬉しいけど、喧嘩はして欲しく無いな。
「人形ちゃんは薬の影響で身体がとても脆弱なんだ。回復したと言っても1人で立つ事も食事する事も出来ないほどにね。誰かの手を借りないと人形ちゃんは生きていけない。私にバルド、それに君達も仕事がある、いつまでも面倒を見続ける事は出来ないのは分かっているだろう?」
「ッ! それは……」
「それに人形ちゃんは誰かの手を借り続けてまで生きる事を良しとしないみたいでね。しかし、幸いな事に人形ちゃんには魔力がある、それも膨大な量がね。だから決めたんだよ。私の持てる全ての知識と技術を教えてあげようと、人形ちゃんが1人で自立出来るように。」
「「……」」
気づけば周りはとても静かになっていた。食堂にいる誰しもが言葉を失っていた。ど、どうしよう。
「人形ちゃんはそれで本当にいいの? また辛い目に合うかも知れないんだよ?」
このまま何も希望も無く腐って死んでいくのなら
「それでも……俺はそれを選択肢する。」
「……分かった。だったら私も協力する、人形ちゃんが1人で自立出来るように私も手伝う!!」
「はぁ。仕方ないわね。私も協力しますわ。」
「ありがとう。」
やばい、また泣きそう。
「そう事なら俺達にも手伝わせろや!!」
「分からない事があったら何でも聞いてね!」
「城の皆んなで協力するぞ! 」
「「「おう!!」」」
話を聞いていた周りの人までもが声をかけてくれた。もう、無理だ。
「良かったね人形ちゃん。」
「あ、ありがどゔ…ございまず。」
こうして俺は皆んなに支えられながら、成長していくのだった。