55 戦う理由
遅くなりましたがあけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
お待たせしました続きです。
時間稼ぎの鬼ごっこをしている間、結局魔物は一度も襲ってくることは無く、何を考えているのかさっぱり分からないが索敵のギリギリの範囲内でずっと追いかけてくるだけで、難無く合流地点の場所に到着した。
そこは邪魔になる草木の無い開けた草原で、国騎士と討魔者と思われる人達がそれぞれの武器を手に陣形を組んでやってくる魔物を待ち構えていた。
その人数はおおよそ私達のクラスと同じぐらいの20人弱、まさか連絡してから僅か十分の間にこれだけの人が集まるとは思っていなかった。
「アルベルト! こっちだ!!」
いかつい鎧を着た人がこちらに呼びかけているので、そのままの状態で駆け込む。
「戻ってきて直ぐ悪いが、お前達2人は陣形入ってくれ。何時もと変わらない奴だ。そして学生の諸君もよくこちらまで誘導してくれた、礼を言う。このまま任務は終了して構わないので、早くこの場から逃げてくれ。ではな」
私達が近づいた瞬間にまくし立てるようにして話しかけてきた騎士は、一方的に話終えるとそのまま自分の持ち場に行ってしまった。
「ごめんね。新種の魔物が現れたと知って、余裕がないみたいなんだ」
一瞬の事に私達が呆気にとられていると、アルベルトさんが申し訳なさそうに謝ってきた。と言うか一緒に走って来たのにアルベルトさんは随分と余裕そうだ。
「君たちから見て、あの魔物はどの程度だと思う?」
そしてそのまま何故か持ち場には向かわず、悠長に私達に話しかけてきた。
「最低でBランクだ。武器を持った魔物なんか見たことない」
「あれはちょっとヤバいかもねー」
「エミルさんの索敵範囲ギリギリを常に保ち続けるって事は、もしかしたら魔法が感知出来るのかも知れませんね」
「初見での討伐は骨が折れそうだな」
うーん、あの感覚をどう言ったらいいか分からないから私は口を噤んでいよう。
「僕も大体同意見だよ。願わくば一緒に討伐して欲しいけど、流石にこればっかりは強制出来ないね」
「……背中まで注意しながら戦うのはごめんだ」
えっ、背中ってもしかして私を背負ったまま戦うつもり?
「ははは、やはりばれてたか。うん、今度はちゃんと玄関から向かうよ。生きて帰れたね」
「……」
あっ、私の勘違いなのね。教えてくれてありがと、エミル。
「じゃ、気を付けてね」
そう言ってアルベルトさんも自分の持ち場に行ってしまった。
「それでー、本当にこのまま逃げる?」
「見たところ魔導士タイプでゴリ押しするつもりだろうけど、人数が足りないな」
「もしこれで全滅なんてしたら、また私達は誤解されるでしょうね」
その場で話始めたミサキちゃん達は、すぐ逃げるのでは無く状況把握をしていた。
「はぁ、お前達は戦うつもりなのか」
ジークさんの問いにミサキちゃん達は無言で頷く。
「やらずに後悔するよりマシだしね」
「見捨てるってのは俺は苦手なんだよ」
「うふふ、ただの偽善者ですよ、私達は。ジークさん達はどうしますか?」
あの魔物は私には正直荷が重いと思うから……戦いたくない。
「悪いが俺はユミルと逃げる」
ジークさんは私の内心を読み取ったかのようにそう言った。
「あははー、そう言うと思った」
「ま、仕方ないか」
「予想道理で逆に安心です」
ミサキちゃん達は最初から分かっていたのか、笑っていた。それに対して私は何だか胸が締め付けられる感じがした。
「そろそろ行った方がいいよー、私でも感知出来る範囲まで来たみたいだからさ」
「死ぬなよ」
「縁起でもない事を言うなよな。フラグになるだろうが」
「それではまた明日です」
「あぁ」
目の見えない私にはこの時、ジークさん達がどんな顔していたのかよく分からなかった。
もうそろそろ小説を書き始めて一年。




