54 牛鬼
短いです
「次はちょっぴり手荒い歓迎になるから、それまで元気でね。シーユー」
そう言い残して男はこの場から音もなく姿を消した。どうやってとか、何がしたかったとか、諸々の疑問は目の前に降ってきた魔物によって、何処かに吹き飛んだ。目の前の魔物から放たれる濃密な瘴気に、私の意識を全て持っていかれてしまった。
空から降ってきた魔物は地面にクレーターを作る程の高さから降ってきたのにも関わらず、体勢を崩す事なく二本脚で着地し、片手に大振りの剣を持って佇む。その格好はまるで人間の戦士、けれど脚の蹄や牛の頭がそれが人間でない事を示している。人間と魔物を混ぜた気味の悪い姿なのに、何故か私の胸は高鳴りを増していく。
緊張とか恐怖じゃない、これは期待だ。でも何に私は……
「新種だ! 気を付けろ!!」
アルベルトさんの怒声を聞いて我に返った私は、何時攻撃を受けても大丈夫なように自分が出来る最大限で身体強化のギアを上げ体制を整える。新種の魔物を前してに悠長に考え事をしている場合じゃない。今は目の前の事に集中しなきゃ。
全員が臨戦態勢に入ったと言うのに魔物はじっとこちらを見ているだけで、襲ってくる気配が無い。私達が行動するのを待っているのか、暇そうに手に持っている剣で遊ぶ始末。
その人間らしい仕草が益々気持ち悪い。でも他人に聞こえるんじゃないかと思うほどに、私の胸は鼓動を強くする。
「指示された通り撤退だ。殿は俺が務める」
「了解!」
「行け!!」
カークさんを殿に私達は淀みなく行動を開始する。障害物の多い森の中で上手く動けない私は、ジークさんに背負って貰い移動中、私は索敵を絶やさない。これも最初から決めていた事だ。
高速で森の中を駆けていくジークさん達の代わりに、魔物が追って来てないかを確認する。するとあの魔物は私達から近すぎず離れすぎない絶妙な位置で、追いかけて来ているのが分かった。
ご丁寧に私の索敵の範囲内のギリギリで。これは間違いなく知能持ちのそれだろう。
その事を伝えるとアルベルトさんとカークさんが息を吞む。私を背負っているジークさんからも緊張が伝わってくる。そして僅かに逡巡した後、アルベルトさんがアイテムボックスから魔道具を取り出して、誰かとやり取りする。
「僕達はこのまま合流地点まで奴を誘導する。これは決定事項だよ」
「了解。時間は?」
「十分もあれば全員が集まる」
「それまで鬼ごっこかぁー」
「ま、仕方ないな」
「はぁ、面倒ごとに巻き込まれるのは、もはや運命なんですね」
「ははは、君たちが普通の学生じゃなくてよかったよ」
どうやら予定が変わったみたいだ。
後少しで1000ポイント




