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49 任務の前に

続きです

ユミルが寝室で眠っている事を確認した所で、俺達は情報交換を行う。毎度の事だが決まって厳重な結界を張っている俺達の家で行うことになっているそれは、転生者以外が聞いても分からない様に前世の言語を使用している。そのため転生者であるか未だに不明なユミルはこの話し合いに参加はしていない。これはエミルであった時も変わっていないことだ。


「それで?」

「んー、まぁボチボチ?」

「は?」


ミサキ達が勝手にユミルに余計な情報を与えた事についての返答がこれでは、納得の仕様がない。


「そう怒るなよジーク、勝手にやったのは謝るからさ」

「俺は学校など正直どうでも良かった」

「この状況でそれが悪手だと何故分からない、ジーク」

「なんだと?」


今のユミルを魔物がいる外界に連れて行く方が悪手だろうに。それに監視されている状態で今のユミルの姿を晒す方が致命的だ。


「知っているジーク? 未知と言う存在はそれだけで脅威なのよ」

「何が言いたい?」

「新種をたった1人で討伐した少女が、強固な守りを張った家から出て来ない。少女の経歴は調べた所で殆ど何も記録が無い上に、他国である俺達がその家に出入りしている。怪しい事だらけだ。そんな時にお前ら2人が学校を辞めてみろ、間違いなく捕まるぞ」

「だからこそ、多少強引であっても監視に今のユミルちゃんを晒す必要があったのよ。私達の様な演技ではない本物の姿を、ね」


マリとハシュマーの説明によって行動の意味を一応は理解した。そういうことなら一言でも俺に伝えてくれればいいものを。


「それにまだジークには調べたい事があるんだろ?」

「ちっ、既に詮索済みか」

「それはお互い様でしょ? ジークさん」


俺達がここに来た理由はエミルの魔眼を取り戻す為の情報収集が第一目標だ。マリからしたら約束はどうした? と言われそうだが、そちらもちゃんと並行して調べている。ミサキ達には魔眼については説明していないが、どうやらレオンの口ぶりからしてばれている。


「はぁ、分かったよ。この件については理解した。そこまで頭が回っていなかった、すまん」

「寧ろジークがそこまで頭が回ったら、凄すぎるって」

「あははー、だねー」

「私たちが3人で分担している事を1人でやっているのですから、誇っていいぐらいですよ」


マリやファルス、ハシュマーまでも労いの言葉までかけてくれた事が多少気恥ずかしいけれど、理解されていることは嬉しかった。


「あぁ、それで本題なんだが、今回の任務中に何かあると思うか?」

「無きにしも非ずって感じかなー」

「前回の魔物の出現がただの様子見だとするならば、可能性はあるかもしれないわね」


知り得た情報では突如として出現した魔法陣の中から、新種の魔物が現れたそうだ。そのことから何かしらの魔法だと推測出来るが間違いなくユニーク魔法の類だろう。蓄積型にも放出型にも転移系の魔法は存在していないからな。それが万が一、人間では無く魔物だったとしても厄介な相手には違いない。


「侵略行為だと思うか?」

「もしそうだとしたら狙いはなんだ? 魔物を送り込んで他国を滅ぼしても人間にメリットが無いだろ?」


レオンの疑問はもっともだ。唯でさえ人類が開拓した土地は少ないと言うのに、その場所をわざわざ魔物でダメにする理由が無い。他国の領土が欲しいなら、それこそ人間同士で戦争した方がはるかにましだ。けれど……


「滅ぼさない程度に調整しているとしたら?」

「それは……」

「国力の低下が狙い、かもしれんな」


俺もファルスと同じ考えだ。現在、どの国にも無差別に現れた魔物が人為的な可能性が高いために、国家間で疑心暗鬼に陥っている。そのおかげで昼も夜も他国出身である俺達に監視の目が付いている。これが普通の学生だったらそんな大層な物はつかなかったのだが、漏れなく全員普通では無かった。


領土内の調査や防衛の強化、他国者の監視は国力がものを言う。けれど、自国で自給自足出来る様な環境で無い限り、長い間維持するのは不可能だろう。その中で問題なのは国力の低い国だ。彼等は早々に他の小国同士で同盟を結ぶか大国の属国になるしかないだろう、それも疑心暗鬼の状態で。


首謀者がもし大国だとしたら簡単に領土を手に入れる事ができ、小国なら同盟国として取り込むか属国として大国に違和感無く侵入出来ると言った具合にやりようはいくらでも考えられる。


「これがあの自称神が言っていた魔王の厄災か?」

「それは否定できないな」

「でもそれが厄災なら、とっても人間的で分かりやすいわ」

「いっそのこと宣戦布告してくれた方が、俺的に分かりやすくていいんだけどなぁ」

「あははー、それはないでしょー」


取り敢えず状況が変化するまでは、大人しくユミルを守る事だけを考えておけばいいか。

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