47 ユミルの日常 3
続きです。
少し強引だったかもと反省しながらエミル特製の杖を片手に持ち、範囲や反響の魔法を発動させながらゆっくりと歩く。その私を中心にして少し不機嫌なジークさんと、何故かちょっと楽しそうなミサキちゃん達が会話しながら自然と私の速度に合わせてくれる。
「お前らが余計な事しなければ」
「あははー、まだ根に持ってるの? 普段は器量があるのにユミルちゃんの事になると、途端になくなるよねー」
「そうですよジークさん。家の中にずっとだと、ユミルさんも退屈しますよ」
「外出は何回もしているだろ?」
「たった3回じゃないですか。それも殆ど家から離れてません」
そうなの? 私的には結構歩いたと思っていたんだけどな。
「ま、俺達が傍にいるから変な事してくる奴はいねえだろうしな。それにもしかしたら今日で、ジークのあの誤解も解けるんじゃないか?」
「その話はやめてくれ……」
途端に元気が無くなったジークさんを不思議に思いながら、そう言えば今日の朝から少し変だったと思い出す。
ジークさんの様子は、私がミサキちゃんに貰った学校の制服を着て朝ご飯を食べにリビングに降りた時から少しおかしかった。妙にそわそわしていているかと思ったら、その後じーっと私を見つめるなど良く分からない奇行を繰り返していた。
そんなジークさんに首を傾げながらも、火傷しない程度に温められたスープと柔らかくふわふわとしたパンを手でちぎりながら食べ進める。身体強化や補助の杖があっても食器を使った食事が苦手な私のために、スープはコップに注いであり手が当たっても倒れない様に、底に重りが付いているなど色々と工夫されている。
こういった物は全部ジークさん達が自作しているみたい。というのも、この国のお店には盲目用の道具など殆ど売っていなかったみたい。食器もそうだけど私がエミルと入れ替わってから階段に手摺が付いたり、手足をぶつけて怪我をしないように柔らかい素材を取り付けたりと家の中がどんどん改造されていった。
とっても嬉しいのだけれど、少しやりすぎかも……
閑話休題
食事が終わった後になってようやく口を開いたジークさんにあれこれと聞かれ、そこからミサキちゃん達が呼び出されて今に至るというわけだ。
「おい、あれって剣闘士じゃね?」
「おぉ! 閃光に狂音者、機械仕掛けまでいるじゃねぇか」
「きゃぁぁ!! 剣闘士様こっち見てぇぇ!」
ふぁ! 人通りが多い場所に出た瞬間から、あちこちで囁く声や大きな声で叫んでる人が沢山いてびっくりした。
「な、なに!?」
「あははー、やっぱりこうなったかー」
「ちっ、鬱陶しいな。ユミルが気にするだろうが」
「ちょ、何で剣なんて出しているのですか!」
「顔か? 顔なのか?」
「貴方達はいったい何をしているのかしら?」
私がうろたえているとため息をつきながら後ろからやって来たのはマリちゃんだった。その後ろにファルスさんとハシュマーさんまでいて、エミルの友達、ううん、私達の友達が全員が集合した。はぅ、マリちゃんの声に癒される。
「あ、おはよー。マリちゃんにファルス君、それとその他」
「おい! その他ってなんだ!」
「はいはい」
「このビッチが」
「あぁー! またそれを言うんだ」
「ほら、喧嘩してると置いて行くわよ」
マリちゃんが来たおかげなのか、さっきまでうるさかった周りが急に静かになった。流石です!
「あら、その制服よく似合っているわ、ユミル。これはジークさんが暴走するのも、分からなくないわね」
「あ、ありがとう」
「あぁ、可愛い……」
むぎゅっと抱きしめられた後、冷静になった皆から騒ぎの原因を教えて貰った。何でも一月以上前にあった模擬戦で一気にランキング上位に載ったとかで、しかもそれが全員新入生だって事で更に注目を集めているらしい。
さっきの良く分からない名前は、ジークさん達の二つ名? だそう。私にもあるみたいだけど何だか恥ずかしいな……
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