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46 ユミルの日常 2

続きです。

ジーク達に魔法を教わり始めた頃は言っている意味が分からず、魔法の発動はおろか魔力さえ感知する事が出来なかった。そんな私が日々悪戦苦闘している時にふとあの子、エミルの時はどうだったのか聞いてみた。


エミルなら一週間ぐらいで習得したんだろうと思っていたけど返ってきた答えは、ジークが出会った頃には既に出来上がっていたと言う参考に全くならないものだった。


エミルがどれぐらいで自分のものにしたのかを基準にしたかったのになぁ。そんな事を思いながらベッドに寝転がっていると、ジークが私に聞いてきた。ユミルは魔力が見えないのか? と。


えっ? エミルって魔力が見えてたの?! 私には何も見えないんだけど……でも、私がエミルと入れ替わっていた時は目が見えてたような。


あれ? どうして見えていたんだろう? 今の私の視界は依然として真っ暗な世界のままなのに……私のポンコツ具合にちょっとへこむ、だって同じ身体で私だけが出来ないんだもの。


一ヶ月経っても全く進歩の無い私を、ジークは甲斐甲斐しく世話をしてくれる。嬉しいのだけれど自分の不甲斐なさに嫌気がさす。クリアになった思考は時間が過ぎる度に余計な事ばかりを考えるようになった。


ジークやミサキ達が世話をしてくれるのは、私じゃなくてエミルのためだ。だって私もジーク達も出会ってから過ごした時間は、エミルに比べたら少ししかない。私はエミルの中でジークの事を知っていたけど、あっちは()()()の私しか知らない。


私は学んだ、人間は残虐で非道な生き物だって事をあの地獄で嫌という程に。ジークだってミサキ達だって人間だ。1人では何も出来ない他人の私は、本当なら見捨てられているはず。でもそうならないのは、私の中にいるのがエミルだから。


私は何時もエミルに守られている、それは元に戻った時でも変わらない。そんなエミルが誇らしいし尊敬する、でも嫉妬する。エミルに私が何で必要なんだろう。


挙句の果てに弱気になった私はジークに、私よりエミルがいいでしょ? 何て聞いてしまった。そんなのジークからしたら当たり前のことなのに。心の弱さに涙が出てくる、自分言葉で傷付いて馬鹿みたい。


泣いている私をあやすようにジークは言葉を選びながら励ましてくれた。


「俺はユミルと言う存在をちゃんと見ている。エミルの真似をして俺をジークと呼ぶその口調も、強くなろうと頑張る姿も、夜に悲しくて泣いているお前も確と見ている。エミルじゃ無いユミルを見ている。だからこそ言える事が1つある。エミルには無い物をユミルは持っている、誰かに頼ることも自分の弱さを吐露する事もあいつは出来ないからな。だからユミルは何時でも俺を、皆を頼ってくれ。ユミルは俺達の可愛い妹みたいな存在だからな」


あぁ、ジーク()()にも敵わないなぁ。全部分かっていたんだ、私がエミルの真似を無理にしているって事を。その日はミサキさん達まで私を励ますために、甘い食べ物や優しい言葉をかけて貰った。しかも、その日の夜にエミルまで私を慰めてくれた。


もう! 起きていたなら早く教えてよ。私も心配していたんだからね。久しぶりに会ったエミルに愚直とこれからの事を聞いていると、まだ解析と改良が終わって無いからもうちょっとよろしくって頼まれてしまった。私の中で何してるの……


でもそっか、頼られたなら仕方ないね。もう少し頑張ってみるかな。


それから結局私が出来たのは第6級の魔法だけで、炎と飛ばすとか土の壁を生成するとか何それって感じ。日常生活はエミルが密かに製作してくれた杖タイプの魔道具を補助に使う事で、何とか1人で行動出来るようになった。


探知と範囲、反響の魔法を杖に付いているボタンを押すことで、使用者の魔力を自動で消費して発動するそうだ。説明をエミルから自慢げに聞いたけどふーん? と適当な相槌だけ打っておいた。そういうのはイインチョウさんにしてください。


「本当に行くのか?」

「うん! 私が代わりに行くって決めたからね」

「別に退学処分になるわけじゃ無いから、無理に行かなくても良」

「本当は可愛い制服を着たユミルちゃんを、他人に見せたくないだけだよねー」

「独占欲が強いのも考えものよね」

「余計な事をしやがって……」


なんと今日はエミルが通っている学校で重要な講義があるのだ。それを知らせてくれたのは、私に女の子として色々と教えてくれているミサキちゃんとイインチョウちゃんからだ。


それなのにジークさんは何故か私を連れて行こうとしたがらない。魔法と杖が使えるようになってから、家の外に何回か出ているのに。まぁ、勿論1人ではないけど。


マリちゃんとファルスさんする学校の話を聞いてから、一度行ってみたいと思っていたの。だから、今日は何としてもついて行くんだから!


結局今年も秋刀魚食べななかった。

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