43 知りたかった事と新たな問題
続きです。
「えっと、誰?」
「……えぇと、ユミルさん、でいいのかしら?」
俺が説明していなくても頭の回転が速い委員長は、ある程度察していた様だった。
「! あなたも分かるんだ! あの子の友達って凄い人達ばっかりなんだね!」
にぱっ、と笑うユミルを見て普段のポーカーフェイスとのギャップに、ミサキ達は気恥ずかしいそうに目線をそらした。
「こほん。じゃあ、私から自己紹介するわね。私の名前はマキ、貴女の友達よ」
「はいはーい。次は私ね。私は貴女のお姉ちゃんのミサキちゃんだよー。よろしくねーユミルちゃん」
「俺はレオン。ジークとユミルちゃんの仲間だ」
マキ、ミサキ、レオンと反芻して必死に覚えようとしている所に、ミサキがマキちゃんのあだ名は委員長だから委員長でいいよ? と余計な事を言って、混乱させていた。
「んんっ! それじゃ、自己紹介が終わった所で、私からユミルさんに質問するわね」
「何?」
「貴女は、いえ、貴方達は一体何者なの?」
先程の空気から一変して緊張感が走る。
「私は私だよ?」
質問の意味をよく分かっていないユミルは疑問符を浮かべながら返答する。
「質問を変えるわね。貴女は人間? それとも魔物?」
俺が怖くて聞けなかった質問を躊躇いなく言いきる委員長。
「私は人間だよ」
「私は?」
「うん」
人間と言ってくれた事に安堵したが、私はとはどういう事だ? それだとまるでエミルが……
「……ならエミルちゃんは?」
それ以上は聞きたくない。
「あの子は」
やめてくれ……
「分かんない」
……は?
「は?」
全員が同じ反応だったは仕方ない事だった。
「んんー? どういう事?」
「なんだそりゃ?」
委員長に任せていたミサキ達も流石に突っ込んできた。俺も気が抜けて一瞬床に突っ伏しそうになるのをどうにか堪えて、詳しく聞いてみる。
「何時からそこにいたのかは分からない、けど」
「あの子は悲しくて、痛くて、暗闇で泣いていた私を救ってくれたの」
「あの子は、私の全てを肩代わりしてくれた。ううん、身体の不自由を、暗闇の孤独を、壊れそうなほどの痛みを、雄に犯される不快を、全て、私があの子に押し付けた」
「でもあの子はそれを乗り越えた。私が諦めた事を諦めなかった。全ての逆境を跳ね返したの。それが私にはとても眩しくて、羨ましくて、あの子を見守る事しか出来なかった」
ユミルの話は説明というよりは独白に近い形だった。何かに耐える様に俯いてしまったユミルに俺達は何と声をかけていいのかも分からず、その場に佇む事しか出来なかった。
「だから、私は決めたの。あの子に全てを譲る事に。けどね、あの子はそんな事認めてくれ無かった。消えるくらいなら役に立て、だってさ」
「それから私が内なる獣を預かる事になったわ。まぁ、預かると言っても私は危なくなったらあの子に知らせるのと、あの子が鎮めている間に少しの間だけ私が代わりを務めるだけなのだけど」
「それから時間が経って私も頑張らないと、と思ったの。何時までもあの子に頼るんじゃなくて、頼って貰えるぐらいになれたらいいなぁ……あ、これは内緒ね」
話しているうちに段々と元気を取り戻していくユミルに安心しつつも、聞き流せない台詞がいくつも出てきた事に動揺を隠せなかった。
内なる獣ってなんだ? ユミルとエミルの関係性は思っていた以上に複雑で、魔物化の事と合わせて理解するには時間が必要そうだった。
急に寒くなりましたね。




