38 研究
遅くなりました。続きです。
人類の繁栄には魔物と切っても切れない関係を持っている。我々人類にとって魔法と魔物の研究は、重要であり必須とも言われている。それを深め、進歩、発展させた者は歴史に名を残す。
この私も魔物研究の第一人者だった。たった一人で研究を十年進めたと言われる程の偉業を成し遂げた。けれども歴史にその名を残すことは無い。もし名を残すとしたらそれは偉業では無く、人の道を外れた狂気の科学者と記される事だろう。
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二体の魔物を研究室に運び終えると、抵抗できない様に研究室に常備していたキマイラの毒を死なない程度に注入する。生きた魔物を研究する事は度々あったために、死体の様にピクリとも動かない魔物だろうが念には念を入れる。魔物の生命力は嫌というほど身に染みている。
毒が体内に浸透した後、先程の臓器が移植された魔物の身体を調べる。近くで見れば見るほどその身体の構造は私達人類に良く似ている。四肢は勿論のこと生殖器までもが酷似していた。唯一外見で特徴があるとしたら額にある短い二本の角だけだろう。
外見を確認し終えた私は次に中身を調べる事にする。腹を切り開き体内のあれこれを確認するまで長い時間を要したが、調べれば調べる程興味深く疲労より好奇心の方が増していくばかりだった。
この魔物は私の念願である人魔一体を果たしてくれるだろう。
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実験 壱
内容 身体の一部の切断、又は破壊(内蔵も含む)
結果 二体共に知能持ちの捕食者である事が判明、普通種か異常種かは不明
追記 二体の再生スピードに多少の時間差あり、魔物は依然として目を覚ます気配無し。被検体を1号(生き返った方)、2号(移植を行った方)と命名
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実験 弐拾弐
内容 生存する他種(魔物)に1号2号の身体の一部を接合、加えて臓器の移植
結果 1号は失敗 2号は成功 1号2号の複合は失敗
追記 1号は移植、接合を行った後数時間に拒絶反応にて死亡、複合もまた同様 2号は移植、接合に成功したと思われたがその3日後に死亡(原因不明) 実験開始から3ヶ月経つが1号2号は未だ目覚める気配無し
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実験 四拾壱
内容 被検体(人間)に1号2号の身体の一部を接合、加えて臓器の移植
結果 全て失敗
追記 被検体は全て移植を行った数分後に死亡 実験開始から6ヶ月後1号の意識が覚醒 2号は未だ目覚めず
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童心にかえった様に新しい玩具を手に入れた私は、月日を忘れて研究に没頭した。今まで頭の中の構想でしか無かった物を現実に出来る、この喜びは生涯忘れることは無い。
実験は失敗を繰り返し成功は一度も訪れないが、徐々に確実に進歩していく。私の念願が叶う日は近い。
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1号が覚醒してからというもの彼女の再生スピードが極端に落ち、瘴気までもが減少の一途をたどっていた。今では唯一の魔物らしい角も無くなり、泣きわめく姿はただの人間にしか見えなくなっている。
捕食者である1号に食事を与えても回復の兆しは感じられなかった。何が1号の身に起こっているか分からないが、実験を止めることは無い。最悪死んでしまっても2号がまだ残っているからな。
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実験を開始から二年にして初めて人体に、1号の■■と2号の■■を移植する事に成功した。これで■■■■■■■■■■■■■……
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「何だこれは……」
「見ての通りだよバルド」
「これではまるで」
「まるでエミルちゃんが最初から人間じゃ無い、と書いてあるように見えるね」
この1号と呼ばれている魔物の特徴はエミルと似通っている。そうだとしても……
「そんな事あり得るのか?」
「分からない……けれど、私は納得してしまったよ」
「何故だ?」
「歯も、神経も、体内の毒も、私は治療して無い。否、出来なかった。何故あの場にいてエミルちゃんだけが、妊娠していなかったのか。体内の膨大な魔力量。年齢に見合わない聡明さ。数えればきりがない」
「ちょっと待て、治療して無いとはどういう事だ? 答えろ」
俺の知らなかった事を口にしたハザックに問い詰める様に聞く。
「0から1は不可能なんだよ、私は1を2にする事しか出来ない。けれどエミルちゃんはそれを可能にした。簡単に言うと自己再生」
「自己再生……」
「だからこそ腑に落ちる。エミルちゃんが最初から人間じゃない、としたらね」
エミルお前は一体何者なんだ?
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