37 日記
遅くなりましたすみません。続きです。
同時刻、和の国でも魔物の襲撃があった。
「ふん! これで最後か」
「ふー、やっと終わったぁ! 私もうヘトヘトだよ」
「そこは同感ですわ。 何でもこんな場所に、魔物が現れたのかしら」
「第一発見者が言うには、魔法陣の中から出てきたらしいですよ?」
「魔法陣? 何それ?」
「何処の誰の仕業か知らないけど、また戦争でも始まる気かしら」
「お前らそこで話してないで、魔物の回収を手伝えよ」
「はーい隊長」
現れた魔物はそれぞれD〜Bランク程度だったが、どれも見たことのない新種のタイプの魔物だった為に時間を要したが、バルド率いる国騎士と討魔者達により被害を最小限に抑える事が出来た。
研究用の死体も回収し終わった所で城に帰り、今日の報告を終え廊下を歩いていると、ハザックから話があると言って呼び出された。
「それで話とはなんだ?」
「今日の襲撃事件ってどうやら和の国だけでは無かったみたいだね? 具体的に何処が襲われたか教えてくれないかい?」
「……相変わらず耳が早いな。報告によれば隣国の技の国から武の国、海を隔てた帝の国、それに法の国でも同様の事件が発生したそうだ」
「犯人が何処の国の仕業か分からなくさせる為の無差別襲撃、って所か」
「後は互いを疑心暗鬼にさせる為でもあるな」
「はぁ、私の仕事が増えない事を祈るとしよう」
「お前が話したかった事はそんな事か?」
「……やっとあの研究書の解読が終わったんだ。 発見された日記も同様に」
「本当か!」
「あぁ、長い話になる」
暗号化されていた研究書は長きにわたり解読が出来なかった。それは捕えていた研究者全員が原因不明の病で急死したために、手掛かりが1つもない状態だったからだ。むしろよく解読したものだ、あの手の物は俺には全く分からんからな。
ハザックの顔を見る限りあまり良くない事が書かれてあったのだろう。さて、鬼が出るか蛇が出るか……
◇
国境線を超え魔物が蔓延るこの場所は法も秩序もない無法地帯だ、ここでは何をしても許される。強者が弱者を蹂躙し、弱者は理不尽に全てを搾取される。
ここには定期的に誘拐してきた女子供が連れてこられ、男達の好きなように壊れるまで使われる。私達はその壊れた物を好きなように弄り、実験に使う。偶には壊れていない新鮮な玩具が欲しくなる。
私がそれを発見したのは偶然だった。実験に行き詰まり気分転換に外を散歩していた時に珍しい魔物に出会った。まるで人間の子供みたいに仲良さげに手をつないでいる二匹の魔物に私は目を奪われた。人間の様に二本脚で歩き、手を繋ぎ、楽しそうにしている魔物など見たことがない。
初めは亜人の子供かと思ったがすぐにその考えを捨てる。何故ならこちらに気付いた二匹は警戒するように全身に瘴気を纏っていたからだ。濃密な瘴気に気圧されたが私は決死の覚悟でその魔物を捕獲する事にした。この魔物はきっと私の研究を進歩させてくれる、そんな予感がしたのだ。
持っていた薬品のほとんどを費やしたが背に腹は代えられなかった。その結果として魔物の捕獲は成功したが、予期せぬ事が起こった。魔物の一匹が私が使用した猛毒により息絶えたのを瀕死のもう一匹が確認するや否や、その死体の腹を自らの手で切り開いたのだ。
腹を切り裂きそのまま中の内蔵を取り出し引きちぎる。幾つかの内蔵を取り出した所で今度は自分の腹に手を突き刺し、先程取り出した所に自分の物を入れる。その行為が終わるまで私は一歩も動く事が出来なかった。
瀕死の魔物が力尽き倒れた所で、私は震える脚を抑えながら二匹の魔物に近づく。知能持ちだとは分かっていたがまさか魔物が治療を施すとは思いもよらなかった。毒が破壊した臓器のみを摘出し、自らの臓器と入れ替える。手荒い移植手術の様だったが先程まで死んでいた魔物が生き返ったのを見て、戦慄すると同時に確信する。
この魔物との出会いは偶然では無く必然、覆すことの出来ない運命である事を。
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