35 魔物
またしても戦闘描写で悩み続ける作者です。続きです。
殺された討魔者は愚かであったが、おかげで魔物の攻撃方法の一つが分かった。身体を纏っている鎧を礫の様に飛ばす遠距離攻撃、それもかなり精密に飛ばす事ができる。そして尻尾の鎧は、礫の様に飛ばしてからまた纏うまでの時間差はほんの僅かであった。
「Aランク以上は確定だな。」
「どうするジーク?」
「今撤退するって言っても、エミルは戦うだろ。顔を見れば分かる。」
あ、顔に出てる? でも、あんなに強そうな魔物がいたら笑顔になるのも仕方ないよね。
「ふふ。じゃ、援護よろしく。」
「はぁ、了解だ。」
俺の強大な魔力を感じた魔物も嬉しそうに全身の瘴気を高ぶらせていた。その瘴気は怖気ついてへこたれていた人でも本能的に逃げ出したくなる程で、腰が抜けて立てない人は這いつくばりながらもこの場から逃げ始めた。
「障害物が消えたね。」
「障害物って……」
「行ってくるね。」
「死ぬなよ。」
俺はジークに返事はせずに変わりにピースサインで答え、魔物に向かって走り出す。あの魔物を一撃で仕留める攻撃は俺には出来ない。だから先ずは鎧で覆われていない部分、関節を狙う。
真正面から突っ込み、左右から時間差で俺の首と脚を狙った鋏を紙一重で躱し、そのまま身を屈め前傾姿勢で魔物の腹部の下を通り過ぎる様にして、脚の関節を狙い魔剣を振るう。
魔力送り強化した魔剣で脚の一本を切り落とす事に成功した俺は、尻尾に注意しながら一旦離脱する。しかし、脚を切り落とされ体液が吹き出しているのにも関わらず、魔物は何事もなかったかのように即座に俺を追ってくる。
これだから知識持ちは……楽しませてくれる!
脚が一本ないとは思えない速さで接近され、距離を離す事が出来なかった俺は左右から絶妙な時間差で振るわれる鋏を、取り出した小太刀二本で捌いていく。その数分の間に切り落とされた脚は再生されていた。
ジークは後方から放出魔法にて攻撃をしているが、瘴気の鎧によってその全て防がれていた。それを見た魔物はジークを後回しにして俺を先に仕留めるつもりで猛攻してくる。だから俺は、ジークが勝機を作るまでの時間を稼ぐ。
魔物を討伐する前提条件として先ずは魔物の瘴気を消耗させる必要がある。瘴気とは俺達が使う魔法みたいなもので、攻撃や防御など魔物によって使い方が違う。魔物はその瘴気のおかげで魔力の大部分を身体の強化と再生に使う事が出来る。
これが人と魔物の決定的な差だ。人は何をするにも魔力を消費するのに対して、魔物は瘴気と言う圧倒的なアドヴァンテージを持っている。
なのでそのアドヴァンテージを削る作業をジークに任せる。頑張って瘴気を消費させて勝機を作ってくれ……なんちゃって。
まぁ、脚の再生速度的に魔力も豊富だろうから俺はそっちを削る事にしようかな。
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