33 勘違い
続きです。
面倒ごとが起きないように少し離れた所で魔導車から降り、徒歩で目的地まで向かう。
到着した目的地は開けた場所に休憩場とも呼べる建物があり、初心者向けの設備が充実していた。そして、そのすぐ近くには鬱蒼とした森が広がっていた。
初心者らしき集団があちこちに存在しており、時折こちらの様子を不躾に見てくる輩もいた。
俺達が軽装かつ、年齢が若いせいなのもあると思うが、あのねっとりとした視線は間違いなく、女性陣に下心を抱いていたのだろう。まぁ、輩が直接手を出してこない限りは放置するのが一番だ。ミサキ達は若干嫌そうにしながらも、何でもないように会話を始める。
「まだ法の国の領土内だけあって、建物がきちんと管理されているね。」
「だなー。それでジーク達は、ここで何が必要だったんだ?」
「野草だな。受付曰く、ここには薬となる植物が多く生えているそうだ。それに、食料になる茸などの山菜も、豊富だとも聞いている。」
「山菜かぁ。とりあえず食べれそうなのを、適当に拾ってくるね。」
「それじゃ、私達はその辺散策しながら探してみるわ。2時間後に、またここで集合でいいかしら? もし何かあれば、携帯電話に連絡してください。」
「りょうかい。」
「また後でー。」
ミサキ達は3人で森の中に入って行くのを確認した後で、俺達はミサキ達と違う方向に探しに向かった。
「周囲の様子はどうだ?」
「うーん、人数はそこそこって感じ?」
「その中に、阿保が何人いると思う?」
「心配性。 山賊でも無い限り、大丈夫だと思うけど。」
「いや、ああいう輩は絶対に碌な事をしない。」
「経験則?」
「そうだな。旅で嫌というほど経験した。」
「お疲れ。」
ジークに少し同情した。俺も大概いい経験何て1つもないからな。
「あ、これ食べれるやつ。」
「そっちにも生えてるな。」
俺は地面に探知の魔法を放ちながら本来の目的である山菜を見つけ、今日の夕飯にでもしようかなと献立を考えていると、ジークが後ろから抱きしめてきた。
「どうしたの?」
「……やっぱり、家にいればよかった。」
「私は大丈夫だよ。」
「本当は、エミルも分かっているんだろ?」
「何が?」
「自分の身体の事だ。」
俺の身体の事? 成長が遅いとかそういう事?
「いずれ、おっきくなる。」
「そっちじゃない、魔物化の方だ。」
あぁ、そっちか。
「ユミルは目が見えていた。そうなるともう、残された時間は限られているはずだ……俺はエミルに幸せになって欲しい、それが俺の我儘だとしても。だから、」
んん? ジークが何を深刻に考えているか分からないけど、とりあえずユミルって誰? たぶん彼女の事だと思うけど、何だかジークは色々勘違いしてそうだ。
「ちょっと待ってジーク。ユミルって誰?」
「……魔物化した時に出てくる、別の人格の名前だ。」
やっぱり彼女の事か。
「時間が限られているってのは、どういう意味?」
「俺にそれを言わせるのか?」
「だって分かんない。」
ジークは何かと葛藤した後、間をおいて歯切れ悪く教えてくれた。……なるほど、だからそんなにも心配していたのか。俺が気付いたのも最近だったからジークがそういう勘違いするのも、無理はないか。
「あのねジーク、それは違うよ。」
「何が……何が違うんだ?」
「私は、理性なき魔物には絶対にならない。」
「何でそう言い切れる。気休めなら、やめてくれ。」
「だって……私は、」
そう続きを口にする前に、強い魔物の瘴気と討魔者の悲鳴によって遮られた。
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