29 変化
今回から少し短めにして更新ペースを上げていこうと思います。
あの子が抑えきれないのも無理はない。だって本来ならこっちが俺の役割だから。むしろこの状態が本来あるべき姿なんだけど、彼女にはまだ荷が重いようだ。
身体を自由に動かせる様に、目が見える様に、傷つかない様に……俺と言う存在が消えて無くなっても大丈夫な様に。気付いたら自分の為では無く、彼女の為になってしまった。それがエゴだと分かっていながら。
二本の角を生やした美しい鬼が本来の姿だ。目が見えず、魔法が無ければ動くことすら出来ない人形では無い。
◇
さてさて、あの子はどんな様子かな? 周りに迷惑かけていなければいいけど。
あ、一瞬だけハシュマー? の姿が見えたな。そしてすぐに真っ暗になったって事は、目をつぶっちゃったか。うーん、やっぱりまだジーク以外の男の人は苦手みたいだな。
あぁ、ハシュマーもあの攻撃は防ぎきれないか。まぁ、消耗してたとは言え、初見じゃどうしようもないか。って、え? 攻撃した後に辺りを見渡しているんだけど、もしかして今攻撃って無差別だったの?! ……今度からジーク以外の男の人の前で交代する時には、先に伝えておこう。
次はジークを探しているのかな? おぉ、他の人にばれない様にちゃんと瘴気と姿を消している! 偉い。……いや違うな単純に他の男の人に見つかりたくないからか。
そして迷っている。彼女って意外とどんくさいな。ん? 何で急に壁を見つめて立ち止まる?
まさか……うわぁ。心細かったのは分かるがそりゃないだろ。猪かお前は。
へー、ジークってこんな顔してたのか、と言うかめちゃくちゃ近い。あ。……あ、あいつ、あんな事ジークにしてたのか! 道理で俺が戻った後、様子がおかしくなるわけだ。ジークも変な罪悪感を感じていたのだろう。
俺の裸を何回も見ている、と言うかお風呂に一緒に入ってたりするくせに。
彼女を見たとたんジークの顔色が見る見るうちに険しくなっていく。そんなに口にキスされるの嫌だったのかな……口は嫌かぁ。はぁ。
そして最後はベッドで全裸にされてからのジークの強引なキス。彼女が何言ったか分からないけど、ぐっじょぶ。
『おかえり。色々大変そうだったね。』
戻ってきた彼女に声をかける。
『えっ、もしかして見てた?』
『うん。』
『私まだ感情のコントロールが、出来て無いの。』
彼女は俯きながら恥ずかしそうにそう答える。感情か、確かに自我を持ってから外に出たのはこれで5回目ぐらいだもんな。
『これから、慣れて行けばいいよ。』
『う、うん。でも、これは貴方の所為でもあるんだからね!』
『俺?』
何かしたかなぁ? コントロールはばっちりだと思っていたけど。
『そうよ。忘れたの? 私は貴方で貴方は私よ。 貴方の感情は私の感情でもあるんだから。』
『うん?』
『私がまだ男の人が怖いのも、ジークが大好きなのも貴方の感情って事。』
『そうか……』
もうそこまで分かる様になったんだ。
『私が言うのも何だけど、もっと感情に素直になったら?』
『素直にかぁ。』
『せめてジークにだけは、素直になりなさい。』
『出来るかな?』
『私がフォローするわ。』
『ふふ、さっきと逆だね。』
『あはは、そうね。』
仕方ないなぁ。彼女が言うなら少しだけ素直になってみるか。
◇
俺はベッドの上から身体を起こす。
「やっと起きたな。おはようエミル。」
すぐ隣からジークの優しい声が聞こえる。よ、よし、やるぞ。
「ジーク、抱っこ。」
俺は甘える様にジークに両手を伸ばす。
「なんだ、まだ魔力が回復してないのか?」
「ん、おはよ。ジーク。」
そうして心配そうに近づいてきたジークの頬に当てるだけのキスをし、ぎこちない笑顔で挨拶をする。
……やっぱりこれ恥ずかしいな。
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