閑話3 思いと決意
更新が遅くなりまして申し訳ございません。
抱きついているユミルを見下ろしながらこれからの事を考えていると、ある事に気付いた。
「貴女は誰? ジークとどんな関係?」
「ひっ!」
瘴気を放ちながら二つの義眼が声をかけた委員長に向く。まさか……
「こっちを見ろユミル!」
「なぁに、ジーク?」
頬を染めて上目遣いでこちらを見上げる ユミルを見て、自分の血の気が引いて行くのを感じる。
まさかもうそこまで進行しているのか。
「……俺達は先に帰る。」
「あはっ、積極的なジークも好きー。」
俺は焦る気持ちを抑えきれずに、ユミルを抱えて家に帰ろうとする。
「あ、え、ちょっと! 急にどうしたのよ?」
「事情は後で話す!」
「ま、待ちなさい! 帰る前に、これを渡しておくわ。」
「これは……」
委員長から渡された物は前の世界にあった携帯電話に酷似していた。
「使い方は、覚えているでしょ?」
「助かる。」
そうして俺は残っている魔力で身体強化を行い、ユミルを抱えて急いで自宅に帰った。
家に帰るとユミルをベッドの上に寝かせ、服を強引に脱がせる。
「あんっ、ジークったら大胆。」
一糸まとわぬ姿になったユミルの以前として変わっていないそれを確認しながら、質問する。
「いつからだ?」
「え、何が?」
「いつから、目が見えている?」
「んー、キスしてくれた教え、んむぅ!」
「いいから早く答えろ。」
「もっと優しくしてよ……えっと、確か、一年前に龍型と戦った時から?」
「一年前からだと……」
まだ和の国にいたときじゃないか。と言う事は、ハザックさんですら気付くことが出来ない程の進行って事か。くそっ、俺にも能力があれば……
「……また怖い顔してる。そんなにエミルが心配?」
「当たり前だ。」
「私は?」
「2人共同じだ。」
「ジークは、優しいね。」
さっきまでの様子とは違い、泣きそうな顔をして笑う。ユミルはエミルと違い感情の起伏が激しい上にころころと変化する、まるで感情のコントロールが出来ていない様に。
「今日はもう寝ろ。」
「えぇー、せっかくジークと二人っきりなのに。」
「いいから休め。」
「じゃあ、寝るまで傍にいて。」
「分かった。」
そうしてユミルが寝たのを確認してから、委員長に貰った携帯電話に連絡を入れる。
◇
「あの後、すっごく大変だったんだからね!」
あの場に居合わせたミサキ、委員長、レオン、マリ、ファルス、ハシュマーを家に呼んだ結果、開口一番で愚痴を言われた。本当にすまん。
「悪かった。」
「全くだよ! ……で、説明してくれるんだよね?」
「あぁ、でもその前に、確認していいか?」
「うん?」
「ハシュマー、お前も転生者なのか?」
「そうだよ~。彼は木下君だよ。」
「何故貴様が答えるのだ!」
「別にいいじゃん。」
「このビッチめ。」
「ね? この返答は木下さんでしょ?」
「……そうだな。」
全く残念な奴だ。
「俺のことはどうでもいい。それより早く説明しろ。」
「……そうだな。まず皆も薄々気付いているだろうが、あれはエミルで間違いはない。」
「顔が同じだもんね。でも、だったらあの瘴気は何? ユニーク魔法?」
「それは違うな。最後のあれは魔法では無かった。」
「あぁ、ハシュマーの言う通りあれは魔法とは根本的に違う。俺はあれを、魔物化と呼んでいる。」
「魔物化!? そんなことあり得るの?」
「普通ならあり得ない、だがエミルならそれが出来てしまう。体内に存在する魔物の臓器によってな。」
「……」
俺の言葉が衝撃的だったのか、全員が言葉を失っていた。
「……冗談はやめなさい。」
「冗談であるなら、どれ程良かった事か……」
「もしそれが本当だとしたら、どうしてエミルちゃんは生きているの?」
「それは俺も分からない。ただ言えることは、適合したのはエミルでは無く臓器の方って事と、魔物化した時はエミルでは無い別の人格が出てきている事。そしてエミルの身体が、その臓器によって徐々に浸食されていることだ。」
「……何よ、それ。」
「視力までもが回復していた所を見るに、恐らくほぼ全身が魔物化してきている。」
「大丈夫なの?」
「エミルの担当した医者が言うには、魔物化が脳まで達した時点で……理性無き化け物になる。」
初めて知ったエミルの現状に、誰しもが黙るしかなかった。
「……どうにかならないの?」
泣きそうな震えた声でミサキが質問してくるが、それに俺は首を横に振るしかなかった。
「もし最悪そうなった場合、ジークはどうするのかしら?」
「……その時は俺が、この手でエミルを止める。例え殺すことになったとしても。」
「ほんと馬鹿ね、ジークは……」
俺の気持ちを知っているマリはそれ以上何も言って来なかった。
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