28 ジークの災難
続きです。
魔法の起源は魔物にある。魔法とは魔物が起こす不思議な現象を研究し、それを真似しているだけでしかない。
辺り一面を無差別に破壊したところで少し冷静になり、再び目を開けて様子を確認する。
闘技場みたいな作りになっているけど、ここはどこだろう? 何でエミルはこんな所で男の人と戦っていたのかな? エミルが追い詰められるぐらいだから、てっきり前みたいに龍型の魔物と戦っているとばかり思ってた。
それにお、男の人が相手なんてどうして交代する前に言ってくれなかったのよ。おかげで力加減出来なかったじゃない。ジーク以外の男の人はまだ無理なの知っているはずなのに、エミルのあんぽんたん。
全くもう。はぁ、とりあえず愛しのジークの所に行こう。
◇
戦闘不能になったジーク達は、イージスアートの医務室に転送され療養していた。そこは回復エリアの様な仕組みになっており、入っているだけで疲労回復などの効果が得られるために担当医などは存在せず、現在はジーク達だけしか使用していなかった。
「最後あれは無理ゲーだろ。」
「確かあれ、第1級放出魔法でしょ?」
「あはは、気付いたら皆ここにいるもんね。」
「今はいないのは、エミルさんとハシュマーさんだけですか……」
「あの二人だけは、次元が違うと思うの私だけかな?」
「俺も同感だ。しかし、どうやってあの魔法を防いだんだ?」
「何か知ってる? ジーク君。」
ミサキ達3人は設備されているベッドでリラックスしながら、先程の戦闘の愚痴を言っていた。その中でジークだけは嫌な予感がしていた。
「どうしたのですか、ジークさん?」
「いや、ちょっと心配でな。」
「エミルちゃんの事? ふふ、ジーク君は相変わらず心配性だねぇ。」
「そう言う心配じゃ ーーッ!」
「……今の何?」
「一瞬だけ、瘴気の気配を感じたな……」
ジークが変な冷や汗をかいていると、ハシュマーがこちらに転送されてきた。
「お、ハシュマー君が来たって事は、エミルちゃんが勝ったのかな?」
「あら、結局負けちゃったのね。」
「ハシュマーでもエミルには勝てないか……」
「と言うか、さっきのは何だったんだ?」
「さぁ? 何か実験でもしてたんじゃない?」
ハシュマーが転送されたのに気付いたファルス達までもがジークの下に集まって来た。
「最後のあれは、魔法じゃなかった……」
「ハシュマー君もお疲れ様!」
「あぁ、って貴様は誰だ! 馴れ馴れしいぞ!」
「私の名前はミサキだよ。よろしくねー。」
「はいはい。そういうのは、全員揃ってからにしてね。」
ジークはファルス達が話している隙にエミルの様子でも確認しようと部屋を出ようとした時、身に覚えのある瘴気を感じて、足を止めた。
「さっきのは、気のせいじゃなかったみたいだね。」
こちらにゆっくりと近づいて来る僅かな瘴気を皆感知したようだ。
「魔物でも逃げ出したか?」
「かもしれないね。」
「でも、何で誰も気付かないんだろ?」
「確かに変だな。もしかして、凄い小型の魔物なのか?」
あれこれ話していると、先ほどまでは僅かしか感じられなかった瘴気が一気に膨れ上がり、こちらに猛スピードで向かって来た。
「ちょ、噓でしょ?! なにこの瘴気!」
「まさか知能持ち?!」
「あっ、さっきの戦闘で俺の装備壊れてたわ……」
ミサキ達が慌てて戦闘準備をしている中、ジークだけは言い訳をどうしようかと全く別の事を考えていた。
◇
やっと見つけた。この場所無駄に入り組んでて探すのに苦労したわ。もしかしてジークがいないんじゃないかって心配になったじゃない。まぁ、私にもエミルの索敵能力があれば苦労はしなかったんだけどなぁ。
逸早くジークに会いたい私は、強引に壁をぶち抜きながら一直線に向かい最後のドアを破壊して抱きついた。
「ジーク見っけたぁぁ!!」
「ぐふぅ! やっぱりか……」
ジークの腰に両手を回して胸に顔を押し当て匂いを嗅ぐ。
「はぁ、はぁ。久しぶりのジークの匂いだぁ。」
「久しぶりだな。ユミル」
「えへへ、久しぶりジーク。」
顔を上げて背伸びしてからちゅっ、と口に軽いキスをして改めて少し赤くなったジークの顔を見る。
「あはっ、ジーク照れてる。」
「お前は相変わらず、愛情表現が過激だな。」
「そうかな? 私的にはまだまだ足りないんだけどなぁ。」
「程々にしてくれよ。」
「うふふ、どうしようかなー。」
ジークと再開を喜んでいたら横からおずおずといった感じで声がかかる。
「あのー、お取込み中悪いんだけど、これどういう状況?」
そこからジークの災難が始まった。
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