22 訓練
お待たせしました。
「それじゃ、昨日の続きからだな。」
昨日と同じで、バル先生が討魔者についての講義を始めた。
「昨日は国騎士の主な役割を説明したが、他にも様々な仕事がある事を忘れるな。いずれまた説明すると思うが、今日は討魔者についてだ。」
討魔者ね。俺は登録だけして依頼とか1回も受けた事ないな。
「討魔者の仕事は、魔物の討伐と調査だ。手付かずの未開拓地は、何もかもが未知の領域だ。そのために討魔者は、開拓に必要な情報を収集し、また脅威となる魔物を討伐する。」
「未開の地を誰よりも先に冒険し、強大な魔物を狩る。そんな彼等に人々は羨望し憧れ、人を惹きつける。」
強大な魔物と言えば、和の国で修行中に会った龍型の魔物は強かったなぁ。2日間の激闘の末に、牙の数本しかへし折れなかったし。
「だが、そんな彼等の中には実力がある分、プライドが高い者や、独断専行、命令無視をする奴が一定数存在している。これにより、開拓中に国騎士と、討魔者のいざこざが絶えない。これが頭痛の種なんだよな。」
あぁ、俺はその頭痛の種の筆頭になりそう。協調性皆無だし。
「また、その逆もしかりで、国騎士も討魔者の事を見下していたり、学のない者と決めつけて、討魔者が培った経験や勘を信じない事も、問題なんだがな。」
結局お互い様って事か。
「まぁ、これに関して言える事は、柔軟な思考を持って臨機応変に対応する、これに尽きる。そうでなきゃ、イレギュラーが起こった時に生き残れないからな。」
バル先生って、確か教師になる前は国騎士で、その前は討魔者だったんだよね。両方を経験しているからこその言葉、って感じがする。
その後もバル先生の講義は続き、終わりを知らせる鐘が鳴るまで、皆んな真剣に聞いていた。
「次は修練場での訓練だ。各自動きやすい服装に着替えて、集合だ。」
やっぱり最初は身体強化の練習なのかな?
「行くぞ、エミル。」
「はーい。」
俺達は、修練場に隣接している更衣室には向かわず、空き教室に移動する。
人前で肌を晒したく無い俺の為に、ジークが事前に色々調べてくれていたみたい。
それにしても、さっきからすれ違う人の多くが、俺達を見てから何か囁きあっている。
ランキングの影響なのかな?
今日の出来事なのに、流石は法の国。情報伝達力が異常だな。
「これは予想以上だな…」
「ランキングの影響?」
「だろうな。」
「私達有名人。」
「ん? 嬉しいのか?」
「全然。」
「だよな。」
皆んなどこで情報を得ているんだろう?
◇
「よし、全員揃ったな。」
修練場には、俺達以外にも沢山の生徒が集まっており、それぞれの授業に取り組んでいた。
しかし、俺達が来てからと言うもの、こちらが気になるのか、授業中なのにちらほらと視線を感じる。
「やっぱり注目されてるな。お前達、気を引き締めて訓練に取り組め。」
「「「はい!」」」
周りから注目されている中で、相手の力量を測る訓練と、魔法の発動までの時間差を縮める訓練が始まった。
具体的には、身体強化を使った状態で組手をし、当たった攻撃を同じ力で相殺する、といったものだ。
発動するまでの時間や、相手の力量を測り間違えると痛い目に合うので、皆んな恐る恐ると言った感じで、取り組んでいた。
失敗して、恥をかきたくないのもあるんだろうけど。
俺達はなるべく目立たない様に、修練場の端の方で皆と同じ様に組手を始める。
「訓練は、どこもやる事同じ。」
「そうだ、なっ。」
「んっ。やっぱり普段通りでいい?」
「もうかよ……目立たない程度で頼む。」
「りょーかい。」
俺は身体強化の段階だけを、いつもジークと鍛錬する時と同じにする。
「この後の模擬戦って、どこまでやっていいの?」
「くっ。内容次第だな。」
しばらく2人で会話しながら訓練していると、ミサキさん達がこちらにやってきた。
「おぉ、エミルちゃんが動いてる。」
「エミルさんって、魔導士タイプだと思っていたわ。」
まぁ、俺の体格で前衛とは誰も思わないだろう。
「変わるか?」
「無理無理無理。見た感じゆっくりだけど、魔力量がおかしいって。そんなので攻撃されたら、腕とれちゃう。」
「私も、身体強化は少し苦手なので、レオンさんが適任かと。」
「待て委員長、俺でもあれはキツイ。」
「交代するの?」
「おう。後は任せたぞレオン。」
「はぁ? ちょっ!」
「じゃ、やろっか。」
「あぁ、くそ。分かったけど少し手加減してくれ。」
俺は交代したレオンさんと訓練している間に、ジークは身体強化が苦手な2人のレベルに合わせて、手解きしていた。ジークは本当にお人好しだな。
「ぐはっ。エ、エミルちゃん?! もうちょっと、手加減してくれぇ。」
そうして、終わりの鐘が鳴るころには、俺の身体強化を相殺しきれなかったレオンの手足は、ものの見事に腫れあがっていた。
「私から嗾けておいてなんだけど、午後の模擬戦は大丈夫なの?」
「別に骨が折れているわけでもないし、平気だ。」
「ちょっと力加減失敗。」
「これでちょっとなの……」
「ま、昼を挟んでいるから、大丈夫だろ。」
「ご飯行こ。」
「だな。」
3人は何か言いたそうにしていたけど、そのまま一緒に学食に向かった。
◇
学食では俺の食べる量に、3人が啞然としていたけどそれ以外は何事もなく、午後の模擬戦が始まった。
「模擬戦は、五人一組の集団で行う。今日は他のクラスも合同なので、集まるまで少し待機だ。」
今回は集団での訓練か。協力できるかな?
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