閑話 ジーク
後もう1話閑話を挟んでから本編の続きとなります。ご了承ください。
最後の会話を少し変更しました。
修学旅行中に起きた地震のせいで、俺達は死んだ。
クラスメイトを乗せたバスが崖に転落したのだ。
朝起きたら歯を磨き朝食を食べ、学校に通う。クラスメイト達と一緒に授業を受け、幼馴染と昼ご飯を食べる。夕方は部活に打ち込み夜は家に帰って夕飯を食べる。
そんな日常にはもう戻れない。
俺は、俺達は転生した、新しい世界に。
◇
俺の名前は山本健一、今はジークと言う名前だ。
あの日死んだはずの俺達は、神を名乗る存在にこの世界〈イストピア〉に神の恩恵を受けて転生した。
神は遠くない未来に魔王が起こす厄災に対抗出来る様にと、基礎能力の底上げや1人ずつに特殊な魔法を捧げてくれた。
前世の知識と神の恩恵を受けた状態で、赤ん坊からの再スタート。それも剣と魔法が存在する世界でだ。
男なら一度は憧れる世界で俺の第2の人生はスタートした。
◇
俺が産まれたのは武の国という、強さが物を言う国だ。これは俺にとってこの上ない環境下だと喜んだ。
しかし、この頃の武の国は王位争奪戦という国民を巻き込んだ内乱が発生しており、国内は荒れていた。
その余波は俺の両親にも襲いかかり、俺は6歳にして天涯孤独となった。
いきなり人生ハードモードになった俺は神の恩恵と前世の記憶を活かして、何とか生き残ることができた。
生き残るためなら自分の手を汚す事も厭わない。強いものが正義なのだ。
10歳になった頃、俺は武の国にある違法賭け試合の選手として人気を博していた。観客は僅か10歳の少年が並み居る大人達を圧倒的力で蹂躙する姿に心を震わせ、多くの金を手に入れる事ができた。
それに、整った容姿と父親の銀髪に母親の碧眼を受け継いでいたので、言い寄って来る女性も沢山いた。
そんな事があった俺は自惚れており、クラスメイトや魔王の厄災などをすっかり忘れていた。
バルドさんに出会うまでは。
俺が違法賭け試合で得た金と名声に浸っている頃、長年続いていた王位争奪戦が終結した。
王の座に就いた武王は賢王だったらしく、長年の内乱により無法地帯と化していた国を僅か2年で立て直した。
しかし、これは俺にとっては喜ばしい事では無かった。無法地帯は無くなり法が定められた事で、今まで運営していた賭け試合は全て廃止となってしまったのだ。
収入源を失ってしまった俺はとある行動に打って出た。それは国王の暗殺。
今になって思うが、あの時の自分はどうかしていたと思う。国王がいなくなればまた賭け試合が復活するとも限らないのに。
自惚れていた俺は和の国から魔剣士が来ていることすら知らずに単独で城に乗り込み、バルドさんにボコボコにされ封魔の手錠をかけられ牢屋にぶち込まれた。
まるで歯が立たなかった。俺のユニーク魔法さえもバルドさんに傷1つもつけられなかった。この時になって如何に自分が自惚れていたかを自覚した。
牢屋の中は色々な事を考え直すのにいい機会だった。そして数日が経ったある日、騎士を連れた瞳も髪も真っ赤な女性がやってきた。
「あなたが噂の最年少の馬鹿ね。単独で乗り込んでくるなんて自殺志願者なのかしら?」
「誰だお前は。」
「私はこの国の第3王女マリティモよ。よろしくね、ジーク君。」
「どうして俺の名前を知っている?」
「僅か6歳にして両親を失い、10歳で賭け試合の人気選手になる。調べれば簡単にわかることだわ。すごい経歴ね。」
「何が言いたい?」
「あなた転生者でしょ?」
「ーーッ。」
「ふふふ、いい反応してくれるじゃない。」
「……どうして分かった。」
「あなたをボコボコした魔剣士が言っていたわ。見たことのない魔法を使っていた、10歳の少年にしては異常な強さだったとね。調べてみると経歴まで異常、おまけに私達と同い年ときたら間違いないでしょ?」
「私達と言う事は隣の騎士もそうなのか。」
「彼の名前はファルス。私の護衛であなたと同じ転生者よ。」
こうして俺は鉄格子を挟んで久しぶりの再会を果たすのであった。
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