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114 ヴァイス

続きです。

「本日から姫様の護衛を務めることになりました、レディ・フィールであります」

「姫様のお世話と雑務を仰せつかりました、ヴァイスです。以後お見知りおきを」


グレイス殿下達にしてやられた俺は渋々侍女に案内されるがままに部屋に戻ると、結果を見越したように専属の護衛と侍女が待機していた。しかもおまけに部屋の装飾までもが変わっており、中でも特にベッドが顕著だった。一体何を想定したのか、最初よりも一回りも二回りも大きくなっていて、顔が引きつりそうになる。


この移動の僅かな時間の中で情報の伝達から手配まで行う手腕と、何もかも殿下達に先手を打たれている状況に二人の本気が窺えたけど、これは流石に露骨すぎる。


「どうかされましたか?」


でも自分からベッドを小さくしてくれとは頼み辛い。だってそれを言うと俺が殿下とのあれを、一瞬でも想像したと自ら告白しているようなものだ。


「……何でもない」


ベッドは見なかったことにして気を紛らわすために、自己紹介された二人の女性を見る。一人は確かマソウと一緒にいた女騎士でもう一人は、と意識を向けたところで立ち尽くしてしまった。


雰囲気と身体的特徴に加えて声まで変わっているが、ヴァイスと名乗った獣人の女性は俺の勘違いでなければブランだ。二年前と変わらない灯には見覚えがある。まさか、この国にジークがいるの?


「私達はお気に召しませんか?」

「……いや」

「左様ですか」


余りにも予想外のことで固まっていたが、ヴァイスの問いかけで我に返る。そうだ、今は現を抜かしている場合ではない。気持ちを切り替えていかなければ。例え戻って来てと嘆願されても、この胸に宿る淡い炎で焼かれ続けたとしても、俺にはやらなくてはいけない事がある。


「では了承も得たところで、私から姫様に報告があります」

「報告?」

「はい、現在姫様にはグラン殿下との逢瀬のお時間以外は、自由行動が許可されております。ですが、その条件として行動の際は必ず、私とヴァイスがご同行させて頂きます。なのでお一人で行くのは絶対にやめてください、何処でもついて行きますので何卒宜しくお願い致します」


レディの報告の最後はもはや懇願に近かった。何が彼女をそうさせているのか分からないが、もしかしたらこの人も巻き込まれてしまった側かもしれない。


「分かった。その逢瀬とか言う面倒ごとの予定は、もう決まっているの?」

「そちらの予定は、グラン様が既に計画しております」

「そう」

「本日の予定は会食以外入っておりません。暮れ合いまでは姫様の自由ですが、どうなさいますか?」


俺の問いに対してヴァイスは感情を見せずに淡々と受け答えをする。それは演技なんだろうけど二年前を知っている俺にとっては違和感でしかない。


「時間があるなら、先ずは私の仲間に合わせて」

「承知しました」


少しも反応を示さないヴァイスの意図が掴めない。けれどきっと遅かれ早かれ何かしらのアクションがあるはずだ。それまでにマシな言い訳を考えておかないといけないな。





「お聞きになられましたか? グラン様の御寵愛を受けることになった美姫の話し」

「ええ、なんでも殿下ご自身でお決めになったとか」

「今まで誰にも靡きもしなかった殿方がねぇ。お相手は誰なのかしら」


本来であればこの時間、グラン殿下との語らいに花開かせていたであろう令嬢達は面会が急遽無くなり、手持ち無沙汰となっていた。そして予定が無くなってしまった令嬢達は当然、原因を作った相手の話題で持ちきりになっていた。


「私も気になってお聞きしたのですが、お相手の詳細は一切教えてもらえませんでした」

「殿下が見初める程のお方なら、心当たりがあってもおかしくありませんのに、私にはこれっぽっちもありませんわ」

「……ファルスは何か知ってる?」


会話には参加せずに一人紅茶を嗜んでいたマリティモは後ろで佇むファルスに尋ねる。


「俺の方にも何も知らされていない」

「そう。残念だわ」


第三王女であるマリティモも噂の美姫の名前すら把握していなかった。


「あの殿下ハートを射止めたのは誰なのかしら」


全体的に少しずつ推敲していこうと思います。話の大まかな流れは変わらないので読み直す必要はありません。


続きを早く書けと思われますでしょうが、なにぶん見切り発車でのスタートだったので読み辛い所など色々と改善出来る場所が多かったと思います。


中々に亀進行ですが途中で放棄することは絶対ありませんので、長い目で見て貰えると助かります。

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