113 鬼
続きです。
とても不服そうにして部屋を出ていった少女を見送った三人は、それぞれ違った表情を浮かべていた。一人は新しい玩具を手に入れたような笑顔で、一人はやる気に満ちた決意ある顔で、一人は呆れたような疲れた顔で。
三人が先程の少女にどの様な思いを抱いたかが分かるようなものだが、一つだけ共通したものがある。それは全員が、どことなく安堵の表情を滲ませていることだった。特に騎士はやっと自分の心臓が早鐘を打つのを止めてくれたと息を吐き、椅子に深々と腰を下ろした。
「全く、グランも難儀な相手を選んだものね」
「む、そこがいいのだろう? 分かっていないな姉様は」
「分からなくていいわよ。それで、グランはどちらを愛するの?」
「無論両方に決まっているだろう」
「あらあら、欲張りな弟にお姉ちゃん感心しちゃうわ。でも、白鬼だけは気を付けてね」
「心得ている。俺様も敢えて龍の尾を踏むような真似はしないさ」
騎士よりも胆力を備えていた二人は、出会ったばかりの少女について語り出す。嘘のような事実に溢れた少女について。
「いやぁ、殿下達は凄いね。おじさん年甲斐もなく、物怖じしちゃったよ」
「ふむ、それは仕方あるまい。マソウ殿は魔物を討伐する機会が滅多にないからな。あのような殺気には縁がないのだろう」
「まぁ、私達は二度目だからね。多少は心構えが出来ているのよ」
「え、二度目なのかい?」
「あぁ、俺様達が出会ったのは鬼のほうだったがな。祭りが始まる数日前のことだ。マソウ殿も覚えているだろう? 俺様達が採掘場の調査に赴いた時だ」
「本人のエミルちゃんは覚えていなかったみたいだけどね」
殿下達の言う通り、国が有する中で最も危険であると指定されている採掘場で出会っていた。今まで出会ったどの魔物よりも人間らしく、禍々しい瘴気を纏った漆黒の瞳を持つ鬼と。
「知っていたのなら、先に教えて下さいよ」
「私も半信半疑だったのよ」
少女を連れて来た騎士のある言葉によって実は、ベッドに寝かされる前に一度診察室で身体を調べられていた。それはグレイス殿下立会いの元にごく少数の人間だけで行われ、少女の瞳が結晶化している事を確認していた。
「では何時からお嬢ちゃんだと気付いたんだい?」
「俺様が気付いたのは、姉様と対峙した時に漏れ出た威圧感でだったな。俺様達が対峙した鬼と全く同じだった。姉様も同じだろう?」
「そうね、私も概ね弟と同じよ」
「なるほどねぇ。でも本当に良かったのかい?」
二人が同一人物だと判断した理由は極めて曖昧な感覚の話しであったが、騎士はそれを疑いもなく信じた。盲信だと言われても仕方ない事だが、それほどまでにこの二人は武人としての信頼度があった。
「良いのよ。エミルちゃんの性格は大体把握したし、それに人如きに龍を支配するのは不可能だと思わない?」
「ですかねぇ」
「それよりも指揮は任せたわよ、騎士様」
「あはは……おじさんには荷が重いなぁ」
◇
採掘場でエミルちゃんが連れていかれるのを眺めているだけだった僕は、現在一目で高級だと分かる宿屋で旅の疲れを癒していた。
『エミルってトラブルメーカーよね』
「そうだね~」
『絶対今回も厄介ごとに巻き込まれたでしょ』
「かもね~」
念話を送ってくる黒豆に適当に相槌を打ち、僕はふかふかの羽毛が入った枕に顔を埋める。ぐうたらしているけど、決してエミルちゃんを見捨てたとかそういう類いのものではない。元々エミルちゃんの身に何かあったら僕は手出ししないように言われていたのだ。そして二日経っても戻って来なければ、僕の好きにしていいという約束を結んでいた。
『……少し変わったね、タイヨウ』
「自覚はしているよ」
鏡太陽 レベル75 人間
HP 1560
MP 1950
STR 60
INT 200
VIT 100
AGI 350
DEX 260
魔法 眷属召喚
残機 2
あの見た目に反して色々とアグレッシブな少女のおかげで、僕のレベルはかなり上がった。そのおかげで、こうして騎士に監視されている状況で平常でいられている。
『ねぇ、エミルが連れて行かれた理由って、やっぱりあれかな?』
「多分ね」
この国で僕とエミルちゃんは目立つような真似はしていない。ただ一人を除いて。
「こんなことになるなら、何をしているか聞いておくべきだったかなぁ」
エミルちゃんが眠った後に必ず出てくるユミルちゃんに。




